
浮輪のように生活空間を宙に浮かせた
まちと中庭に開く、“おおらか”な住まい

寺崎 悠真
てらさき 悠真
てらさき建築設計
石川県 金沢市
私は滋賀県長浜市生まれですが、父の転勤に伴い熊本・高知を経て、小学校6年生の時に金沢に引っ越してきました。 そして大学で京都に出て、大学院で東京に移り、2023年に金沢に戻ってきました。 数えると14の町と家で過ごしてきたことになります。 その間に無意識のうちに、空間に対する意識や価値観が形成されてきたように思います。 子供の頃から絵を描くことと工作が好きでした。 おもちゃや機械を分解するのも大好きでした。 建築設計は、人が過ごす場所の仕組みをデザインしていくこと。 大好きなことを仕事にできている幸せを日々感じています。 家族は妻と小学生の子供2人。 妻も仕事をしているので、家事も子育ても二人でやりくりしながらの毎日です。 趣味は庭いじり、料理、読書、散歩。麻婆豆腐には自信があります。 よろしくお願いします。
家とまちの“ちょうどいい距離感”を叶える
住居部分が宙に浮いたロの字型の住まい
新生活の場所に選んだのは、350年ほど前に開村された静かな住宅地。はす向かいに神社、家の前には用水路があり、道路というよりも路地という表現がしっくりくる、車社会になる前の“ヒューマンスケール”が心地いい親しみのある雰囲気に惹かれたという。
住環境としてはイメージ通り。ただし一つだけ問題があった。敷地の周囲に家が近接していることだ。
寺崎さんが叶えたかったのは「明るい大きな庭と、庭に開く住空間」。プライバシーを保ちにくい条件下でまず思いつくのは中庭のある家だが、周囲を囲まれた井戸の底のような形では、寺崎さんが求める明るさや気持ちよさは望めない。
そこで思いついたのが、ロの字型の住居部分を高く持ち上げ、中庭に盛土をし、2階の住居部分へつながる螺旋上のアプローチをつくること。
“抜け”が生まれるこの立体的な構造により、光や風、外からの視線を誘導するとともに、庭の緑が通りにまで届き、家とまちの“ちょうどいい距離感”を保つことができるように。持ち上げた住居部分の下には、事務所、客間、駐車場などを設け、「通りに面した場所で、まちの人に顔が見えるように仕事がしたい」という、建築家としての想いも形になった。
土に近い場所で自然の営みに寄り添い
季節の移ろいを楽しむ庭のある暮らし
「コロナ禍で外出が制限されていた頃、庭のある暮らしの重要性を実感したんです。土に近い場所で自然の営みを感じながら暮らすことは、人間としての本能的な感覚を培うことにつながります。観賞用ではなく、自然に近い状態の中庭をつくり、ロの字型の建物でぐるりと庭に開く。緑、空、風、土、虫や鳥たちのふるまいと溶け合い、季節や天候の移ろいを感じる豊かな暮らしを、一つひとつにワクワクしながら子どもたちと一緒に楽しんでいます」。
さて、ここからは自邸へとお邪魔しよう。
通りからピロティ状の駐車場を抜け、緩やかな丘庭のアプローチを登り、2階にある住居の玄関へ。自然の中をゆったり散歩しているといつの間にか家へ導かれている。そんな感覚こそ、家とまちがグラデーショナルにつながり合う空間づくりがしたかったと語る、寺崎さんがねらった建築体験の一つだ。
リビングの延長として設けた土間を入口とする住居部分は、建具のみで仕切られたひと続きの空間。LDKはカーテンのない全面開口で庭とつながり、春の新緑の色、夏の空の色や夕暮れの色、冬の柔らかな空の色と、季節や時間によって刻々と変わる風景が、そのまま内部空間を彩るインテリアに。
設計者であり住まい手でもある寺崎さんは、そんな毎日を「壁紙の色や家具でコーディネートするのとはまた違う、本質的で豊かな美しさだと感じています」と表現する。
また、ロの字型の住居部分を一般的なサイズ感よりも一回り小さくし、庭との距離感を近づけたのもこだわったポイント。意識が自然と庭へ向くよう、開口部のサッシの高さは一般的に採用されるサイズよりも40cm小さくした。
広い空間の先に綺麗な庭を眺めるのではなく、テーブルの向こうや枕元にすぐ庭がある。そんな感覚を求めた、庭や建築と身体の親密性を高める“ヒューマンスケール”は、寺崎さんがこの土地に抱いた居心地のよさに通じるものがある。
雑多な日常の中にこそ生まれる愛おしさ
すべてを包み込む“おおらか”な空間とは?
大人と子ども、総勢30人が遊びに来たこともあるほど、自然と人が集まってくる寺崎邸。その理由として挙げてくれた“おおらかさ”こそ、寺崎さんが手がける家に共通するキーワードであり、人々を惹きつけて止まない魅力でもある。
「家はあらゆる意味でおおらかじゃないといけないと思っています。まちとのつながり方もそうですし、自然に対してもそう。『プライバシーを犠牲にしないけれど排他的にはならない』というスタンスの下、おおらかな設えにすることで、まちや自然と仲良くしていきたいなと」。
「内装においてはラフさを残すことを大切にしています。洗練されたインテリアで整えた空間は素敵ですが、家族が毎日過ごす場所としては疲れてしまう。洗濯物が転がっている、読みかけの本が積まれている、子どもがおもちゃを散らかす、冷蔵庫にはマグネットで貼られたメモがびっしり。生活って本来、生々しくて、慌ただしくて、だらしなさもあって、コントロールしきれない部分がありますよね」。
「そんな日常の雑多さを優しく受け止め、慈しみ、楽しめるおおらかさを空間に与えたい。その工夫としてピカピカの新建材で空間をつくり込まず、自然のムラや手触り感のある素材を使うことで、生活感のあるアイテムがノイズにならない住まいを心がけています」。
豊かな自然に囲まれた田舎の暮らしに憧れつつも、自然と上手く折り合いをつけながら、都市の中で暮らす生活を選択した寺崎さん。
「都市部の敷地にも必ず気持ちのいい小さな自然があります。隣地とのわずかな隙間から入る光や風、お向かいの一本の木、見上げたら空も広がっている。温熱環境についても機械に頼り切らず、『窓を開けたら風が入って気持ちいいよね』という感覚を忘れないようにしたい。そんな自然との向き合い方、開き方を考え、心地のいい関係をつくりたいと思っています」。
この想いに共感できる方は、寺崎さんが大切にする“おおらかさ”ときっと相性がいいはず。寺崎さんとの会話をぜひ、理想の暮らし方の解像度を高めるきっかけにしてほしい。
基本データ
| 作品名 | 長坂の浮輪 |
|---|---|
| 所在地 | 石川県金沢市 |
| 延床面積 | 157.43㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供2人 |
| 予算 | 4000万円台 |
設計者情報

寺崎 悠真
てらさき 悠真
てらさき建築設計
石川県 金沢市
私は滋賀県長浜市生まれですが、父の転勤に伴い熊本・高知を経て、小学校6年生の時に金沢に引っ越してきました。 そして大学で京都に出て、大学院で東京に移り、2023年に金沢に戻ってきました。 数えると14の町と家で過ごしてきたことになります。 その間に無意識のうちに、空間に対する意識や価値観が形成されてきたように思います。 子供の頃から絵を描くことと工作が好きでした。 おもちゃや機械を分解するのも大好きでした。 建築設計は、人が過ごす場所の仕組みをデザインしていくこと。 大好きなことを仕事にできている幸せを日々感じています。 家族は妻と小学生の子供2人。 妻も仕事をしているので、家事も子育ても二人でやりくりしながらの毎日です。 趣味は庭いじり、料理、読書、散歩。麻婆豆腐には自信があります。 よろしくお願いします。
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