
父娘の創造力を刺激する!
「大きな屋根裏」と和の空間

李 孝哲
イ ヒョチョル
株式会社ムービング・アーキ一級建築士事務所
東京都 渋谷区
「人の生活に寄り添った住まいづくりを」という強い想いから、独立し個人事務所を開設。 リフォーム、住宅、マンション設計と数々の物件を手がけ、2013年に株式会社ムービング・アーキ一級建築士事務所を設立。 現在は、注文住宅から、大手デベロッパーのマンション、商業施設など幅広く携わっている。 外国人建築家として日本を客観的に捉え、日本文化を軸にした住まい作りに専念している。
表情豊かな「自然光」と暮らす家
Tさん邸の心地よさを生む上で大きな役割を果たしているもののひとつは、朝夕、春夏秋冬それぞれの表情豊かな自然光。生まれ育った家の建て替えを建築家の李 孝哲さんに依頼したとき、まず要望したのは「家の中のどこにいても、外光で時間を感じられること」だった。このテーマに対し李さんはさまざまな工夫で応え、中でも2階のTさんの居室は光の変化を存分に楽しめる空間となっている。
2階は天井がないフロアぶち抜きのワンルーム。李さんによれば、この造りはコストダウンにも貢献するそう。「この家は、平屋に大きな屋根を乗せた構造なんです。いわば、2階は『大きな屋根裏』ですね。天井を設けるよりも屋根裏に広さ・高さを出して居室とすれば、コストを抑えることができます」
天井がないのだから、当然、屋根を支える垂木はむき出しで、屋根の傾斜がそのまま室内にも反映される。2階には、その傾斜に沿った垂木の合間に陽光を採り込むトップライトが2カ所。ひとつは吹抜けの階段の上、もうひとつはフロアの中央だ。4つの壁面には清々しい風が通る大きめの窓と、均等に並んだ小さめの窓。つまり、上方と四方、合わせて5方向に窓があり、多彩な光が長時間入るのである。
「道路側の壁は同じ型の規格品で小さな窓を使用しているため、型が異なる大小の窓を使用するより低コスト。こうした窓の入れ方は、外部から室内の様子がわかりにくいというメリットもあります」と李さん。Tさんも、「この窓のおかげで外観が個性的になり、普通の民家に見えないと言われます。それに、こういう窓の配置だとカーテンがなくても外の人目が気になりません。おかげで室内はすっきり」と笑顔だ。
乗用車の内装デザイナーとして勤務するかたわら、挿絵画家としても活躍するTさんは、2階の自室で仕事をすることも多い。「狭苦しさのないのびやかな空間だし、窓越しの空や光、室内の木の風合いに囲まれているとホッとします。ここに住み始めてからアイデアがどんどん出るようになって、クリエイションがパワーアップしました」とのこと。光と景色で時間や季節の流れを体感できる広々した屋根裏部屋は、感性を大切する職業のTさんにとって、最高の空間となっているようだ。
「シンプルだけど個性的」を叶えた、日本家屋の要素
1階には、Tさんが最も好きだというスポットもある。北側の奥にある、2階へ続く吹抜け階段の上り口だ。ここから上を見上げると、2階床にあるガラス張りのグレーチングと屋根のトップライトを通して青い空が目に飛び込む。「北に位置しますが、日中はいつも明るく柔らかな光が入ります。空の高さを感じられるこの場所で、流れる雲や星を眺めるのが大好きなんです」とTさん。
こうした光や眺めの楽しさに加え、Tさん邸の心地よさを担うもうひとつの要素が構造材や建具だ。とはいえ、決して奇抜なものを取り入れているわけではない。ともすると単調になりかねない大空間に味わいを生み出しているのは、障子、柱、屋根を支える垂木など、日本家屋を構成する上で一般的に使われるものばかり。ただし、Tさん邸ではこれらの建具などが、空間デザインの要素として極めて効果的に用いれられている。
たとえばLDKとお父さまの書斎・寝室コーナーを仕切る障子は10枚と、民家の連続した障子としてはかなり多く、それだけで十分なインパクトがある。2階のTさんの居室も同様で、等間隔の柱の列が3列。上部には垂木が整然と並ぶ。広いからこそ実現できた「規則正しいものを連続させた空間美」が、シンプルで洗練された奥行きと視覚的な動きをもたらす。
これらのデザインの妙は、Tさんと李さんがアイデアを出し合って生まれたもの。家づくりのプロセスで李さんが最も大切にしたのは、Tさんの希望が具体的に固まるまでの綿密なコミュニケーションだった。Tさんの飼い猫の体調不良などで間が空く期間はあったものの、初めての打ち合わせから着工までの期間は約2年。李さんはあくまで施主の意志を尊重し、施主が納得するまでじっくり対話し続ける。
だからこそ、仕事柄、家づくりにはさまざまな思いがあったTさんがここまで気に入る住まいができたのだろう。「李さんと対話を重ねることで、自分の中で理想の家のイメージを形づくることができました。こだわりのひとつだった障子の取り入れ方も、とても気に入っています。採光はもちろん、当初から希望していた『シンプルだけど個性的な空間』というテーマも期待以上の出来栄えでクリア。家にいるのが本当に楽しいです」
作った人:李 孝哲さんコメント
傾斜のあるトップライトや光を通す障子を効果的に取り入れて、光の変化に富んだ家になりました。東西南北の窓は大きさだけでなく設置する高さにも変化をつけているため、時間ごとにいろいろな位置から光が入って面白いと思います。この家の個性を象徴する2階は天井のない「大きな屋根裏」としてつくってコストダウン。屋根の面積が広くなったので太陽光発電に活用し、お父さまが安心して使えるように、コンロ、床暖房もオール電化としています。
住んでる人:父+娘コメント
李さんはできること・できないことをわかりやすく率直に伝えてくださるので、私も気軽に希望を言えました。打ち合わせはいつもアットホームな雰囲気で楽しかったですね。この家は室内でも光の変化がよくわかり、日が高くなる朝10時と月明かりを眺められる夜は、特に好きな時間帯です。高齢の父のことを考えて、玄関の上がり框は建築中に父が実際に上って無理のない高さにするなど細やかに心配りしてくださり、とても快適な家になりました。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 神奈川県相模原市 |
|---|---|
| 施主 | T邸 |
設計者情報
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