
採光、断熱、生活動線をアップデート
懐かしさを感じながら暮らしを楽しむリノベ
受け継いだ家に手を入れたものの
採光や断熱、生活動線に不満アリ
もちろん、何ら不満を感じない人や、不満を感じつつもそれを受け入れて生活を送っている人も多いだろうが、「自分達の思い通りの家にしたい」と思いで「建て替え」「リノベーション」を検討する人も多い。
大阪府枚方市に住むMさんご家族もそんな思いを持っていたという。両親が建てた築50年近くの庭付きの一戸建てに住んでいたMさん家族。部屋数も多く3人暮らしのMさん家族には十分な広さの家だった。しかも、移り住むことになったときに、地元工務店に依頼しキッチンなどの設備を新しくするなど、手を入れてもいた。
しかし、Mさん夫妻は、この家の採光や断熱、間取りに伴う生活動線などに不満を抱えていたという。受け継いだ家が、自分達のライフスタイルとマッチしていないと感じていたのだ。
そんな思いをもっていたあるとき、Mさんは1人の建築家と関わることになった。関西を中心に住宅、店舗、オフィスなどの新築・リノベーションを手掛ける建築家、アリアナ建築設計事務所の三野さんだ。Mさんは、勤務先の会社が所有するビルやマンションといった不動産を管理する仕事をしていて、マンションの一室のリノベーションを担当したのが三野さんだという。
「マンションのリノベの仕事が終わりかけたころ、『実は、自宅を』といった形でご相談を受けたことを覚えています」と三野さん。
Mさんは仕事柄、建築家の知り合いもいたに違いない。そんな中、三野さんに相談したのは、
担当者として三野さんの仕事に触れ、その手腕と対応に真を置いたからに違いない。
「投げて」「受けて」のキャッチボールで
丁寧に納得のプランに仕上げていく
「実際に家を訪れ観察することで、何を持っているか、どんなものが好きなのか、量はどのくらいか、片付け上手なのかといった、現在の暮らしを把握することができます。それは後々、プランに生きてくるのです」と三野さん。
実際、Mさんのケースでは、元の家で使われていた建具をそのまま利用したり、別な場所で再利用したりしたことも、この観察が生きたことだろう。
家の中を見ることで、奥様が感じていた生活動線・家事動線の不便さや採光の問題も確認。たしかに「今の家族の暮らしには合っていない」家だった。また、使いきれていない部屋があり、部屋数を持て余しているようにも感じたという。
「不満な箇所が多くあった一方、Mさんにこの家に対する愛着も感じました」と三野さん。
そこで三野さんは、手始めに新築案とリノベ案の2パターンでプランを出したという。そうすると、新築の場合は予算的に現在よりコンパクトな家になってしまうこと。一方でリノベ案でも、これだけの広さがあれば十分に思い通りの家にできることなどを伝えたという。
こうしてリノベ案で進んでいくこととなった。しかしリノベ案が採用されたものの、すんなりとプランが決まったわけではない。最終図面に落ち着くまでに、8回ものプラン変更があったという。しかし三野さんは、ある意味手離れの悪いこのプロセスこそ大事にしていることなのだという。
「まずは最初の提案を投げかけます。そしてそれに対するフィードバックをいただき、さらにブラッシュアップさせる。その繰り返しで、お互いが納得する最終プランまでもっていくスタイルです」と三野さん。プランを「投げる」、フィードバックを「受ける」のキャッチボールを繰り返すことで、施主の叶えたいことを知り、それに対する新たな提案を考えることが楽しいのだという。施主と共に試行錯誤し、施主が納得するまで寄り添うのが三野さんの仕事の流儀。一方、施主にとっても自分達の考えを汲み取ったプランを次々に出してくれる三野さんは、ハウスメーカーや工務店などへの発注では得られない、建築家に依頼をすることの醍醐味を味わわせてくれる存在であるに違いない。
土間と吹き抜けがもたらす光あふれる空間で
懐かしさを残しつつ、豊かな暮らしを実現
外壁の一部に、黒いサイディングを採用し落ち着きと風格ある味わいに。あえて色むらのあるものを使うことで、経年の風合いを出した。軒の内側には、杉板を貼った。こうすることで、夜になると室内の灯りが反射し、行灯のようにぼんやりと照らされるのだ。
玄関までのアプローチは、あえて距離をとり半屋外のポーチを設けた。プライバシーの確保と共に、訪れた人にわくわく感をもたらす演出でもある。
門灯やポーチの扉には、元の家にあったものを再利用。前の家を知る人は、懐かしさを感じるに違いない。
扉を開け、玄関に入ると右側には外壁と同じ黒壁。落ち着いた空間にハイサイドライトからの光が差し込む。
室内に入り、扉を開くとそこは、光あふれる大空間のLDKが広がる。リビングの先は内土間になっており、庭とシームレスに繋がる。そして視線の先には、土間の一角が。三野さんが提案したリビング土間だ。元々和室だったこのスペースを有効活用し、第二のリビングとしても使え、広い土間としても使えるユーティリティースペースを生み出した。庭と内土間、リビング土間、リビングと断続的に「外」と「内」が連なることで。畳数以上の空間の広がりを感じる。このリビング土間は、平面方向の広がりをもたらすだけではない。実はこの上部が吹き抜けとなっており、垂直方向の広がりと2階の窓からの光を降ろす役割も果たしている。また三野さんはあえてこの部分には、もとの和室の床の間の意匠を残した。今はMさんの趣味である北欧雑貨が飾られているという。奥まった和室にあった床の間が、皆が集まるリビングに現れたことで、ご両親もとても喜んでいるようだ。さらに、リビング土間の奥にある籠る感じの内土間にはピアノが置かれ、集中して練習できる場も確保できた。1つのアイデアでいくつもの役割をもたせてしまう三野さんのアイデア力には脱帽だ。
リビング土間の隣にある木でできた丸みを帯びたフォルムの構造物が目を引く。これもデザインと実用性を兼ねた三野さんの工夫の1つ。実はこの中は、個人のロッカーが納められていて、ウォークインクローゼット、洗面・浴室へと続く。丸みを持たせたことで、リビングから目隠ししつつ、ドアレスにすることができた。このロッカーの便利さは、Mさんご家族にも大好評だという。
リビングの奥には、元の家からキッチンを移設。アイランドキッチン、パントリー、水回りからクローゼットと、回遊動線が生まれたことで、動線問題も解決した。
階段を上り2階に上がると、ここはプライベートゾーン。子供部屋と夫婦の寝室以外に「作業部屋」も設けた。壁の仕上げをせずラワン合板の木に囲まれた空間は、子供の遊び場でもあり、趣味を楽しむ場でもあるとともに、気兼ねなく絵や工作などの作業ができるアトリエでもある。また、来客時には客間としても使えるように、元の家の雪見障子やガラス扉を再利用している。
既存物件のリノベーションは、新築とは違い柱や梁の関係で、間取りを全て自由にというわけにはいかない。そんな制約がありながらも、三野さんは見事にMさん家族に合った、Mさん家族のための家を生み出した。
Mさんご家族は、この家になって「以前は眺めるだけの庭が、室内と連続することで使いやすくなった」「子供も庭で遊ぶようになった」「庭にテントを張って楽しんだ」「外観のデザインや夜の雰囲気も良いと言われる」「家事の後にリビング土間で雑誌を見ながらコーヒーを飲む時間が好き」などと、とても気に入っているご様子。
実はこの家の内壁は、自然塗料をMさんご家族や三野さん、さらには三野さんの事務所のスタッフが手作業で塗ったのだという。まさに建築家と共につくってきた家なのだ。三野さんはこれからも、施主とじっくりと寄り添い家づくりをしていく。
基本データ
| 作品名 | 光の家 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府枚方市 |
| 敷地面積 | 205.39㎡ |
| 延床面積 | 147.19㎡ |
| 予算 | 2000万円台 |
撮影:エスエス大阪 土出将也
設計者情報
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