
施主と建築家の共同作業で叶えた
住まう家族も猫たちも心地よく共生する家
テーマは、人と猫が共生する家
偶然の再会がつなぐ、家づくりの縁
そんな閑静な住宅街の一角に、「猫との共生」をテーマに設計されたK邸がある。
この家を手掛けたのは、設計事務所「CHA」の原﨑寛明さん。妻の星野さんと共同でCHAを主宰し、通常は二人三脚で案件に取り組む原﨑さんだが、このK邸に関しては原﨑さんが主担当を務めた。
K邸の舞台となったのは、建物のリノベーションやプロデュースを手掛ける会社が仲介した築浅コーポラティブハウスの一住戸。事情によりスケルトン状態のままとなっていた空間を、Kさんが購入したことから、家づくりは始まった。
当時所属していた企業でオフィスの設計業務をされていたKさんは、当初は自らの手で自邸の内装を設計することも考えていたようだが、住宅設計は専門外であること、多忙な日々の仕事との両立という現実的な壁が立ちはだかっていた。
そうした悩みを聞いたプロデュース会社のプロデューサーが「信頼できる建築家と一緒に練り上げてみてはどうか?」と紹介をしたのが、これまでの仕事を通じて、深い信頼を寄せていた原﨑さんだった。
こうしてつながったKさんと原﨑さんだったが、実は2人は、3年ほど前にあるプロジェクトで関わっていた間柄だったのだ。
結果的に、そのプロジェクトは完成に至らず中断となったというが、お互いに好印象をもっていたのだろう。
「当時、お互いに『また機会があったらぜひご一緒しましょう』と言い合っていたんです。次の機会が自邸になるとは――正直驚きました」と原﨑さんは笑う。
原﨑さんが培ってきた誠実な仕事への向き合い方が、時を超え、再びの縁を引き寄せたに違いない。
こうしてスタートしたK邸の家づくり。根幹にあったのは「猫との共生」というテーマだった。
Kさんは2匹の猫を飼っていた。ところがこの2匹、必ずしも仲良しというわけではなく、以前の住まいでは片方の猫が追い詰められてしまうこともあったという。人間と猫だけでなく、猫同士が穏やかに距離を保ちながら暮らせる空間設計が根本的な命題となった。
Kさんが求めたのはそれだけではない。充実した収納、集中できる書斎、フレンチヘリンボーンの床材、そして古建具の活用――実用とこだわりが交差する要望もあった。
さらにKさんは「ゾーニングはこうするしかないと思うんです」と、自ら図面を作成し原﨑さんに見せたという。
「私もそのゾーニングは理に適っていると感じました。あとはいかにKさんの要望を丁寧に実現しながら、猫との共生を空間に織り込み、さらに1つ上の価値をもたせられるかがカギとなると感じました」と原﨑さんは振り返る。
施主の確かな眼と、建築家の創造力、信頼関係を土台に、豊かな暮らしを実現する家づくりとなった。
施主の要望は、建築家の手で昇華
家族や猫も満足し、買い手も引き寄せた内装
扉を開けて邸内に足を踏み入れると、遮るもののない、光あふれる空間が広がる。コンクリートの土間が、真っ直ぐ窓際まで伸びている。この土間は、玄関でもあり、陽の光を浴びながら寛げるインナーテラスとしての表情をもつ。
視線の先の壁には、大小4つの箱型の飾り棚。実はこの飾り棚は、猫が上り下りするための階段でもあり、ひなたぼっこの特等席でもある。まさに一石三鳥の工夫だ。
一段高くなったLDKはアッシュ材のフローリングを採用。Kさんのリクエストだったフレンチヘリンボーン貼りで彩られ、視線が自然と奥へ導かれるかのよう。
天井や壁は、刷毛で塗る、質感のある特殊塗料を採用。薄いグレーの質感が空間全体に落ち着いた雰囲気をもたらしている。実はこの塗装は、Kさんご夫婦と親族で塗ったのだそう。刷毛の塗り跡があるのもまた味のひとつだ。暮らしの中で、この作業を何度も思い返すに違いない。
リビングと寝室との境には、Kさんが熱望していた古建具が存在感を放っている。壁の中に建具が引き込まれるよう壁厚も調整した、細部への配慮。
リビング全体に眼を向けると、手持ちの家具や、明るい色の集成材でつくった造作棚などが混在し、一見すると不揃いなトーンのものが、それぞれの個性を放っている。しかしながら、それらが不思議と調和し、海外の職人の工房のような、懐かしく温もりのある居心地の良さが漂っている。
リビングの奥、将来二分割することも視野に入れ配置計画された、2枚の古建具の扉がある。この先にあるのが寝室だ。
左側がベッドスペース。正面には、Kさんが望んでいた書斎。一段低く設えられた、上部にはロフト収納を設け、空間を立体的に活用した。ロフトへのはしごの踏板は、幅を互い違いにした千鳥状。これは、普段リビングに置いておき、猫の移動用のステップとして使うための工夫。こうすることで、リビングのキャットウォークが行き止まりにならず、二方向に抜けられる回遊性が生まれる。
猫用トイレは人用と同じくトイレに設置しているが、リビングのテレビ台の下に猫用ドアを設け、リビングから直接行けるよう、猫専用の通路でつないだ。猫にとってもストレスなく過ごせる、原﨑さんの細かな気配りだ。
「人間と猫だけでなく、猫同士も共存した生活が送れています」と語るKさんの言葉には、満足と安堵が感じられる。
もしかしたら、Kさんの要望は、工務店に直接伝えても、満たされたかもしれない。しかしそれは「ただ要望を取り入れたもの」に終わっていたのではないだろうか。原﨑さんの手を経たことで、叶えたい要望が整理され、最適な形へと昇華された。人も猫も、真に快適に過ごせる家になったのは、2人の共同作業だったからこそだろう。そして何より、Kさん自身が、この家づくりをとても楽しいひと時として味わったに違いない。
「ペットを飼う方の住まいに携わった経験はこれまでもありましたが、今回はペット自身の快適性まで深く考えながら実現できた、良い経験となりました」と原﨑さんは、静かに振り返る。
人も猫も、おそらく猫以外の動物も、CHAならきっと満足できる家をつくってくれるに違いない。
撮影:加藤甫
基本データ
| 作品名 | 浜田山の住戸 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都杉並区 |
| 延床面積 | 50.04㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人+猫2匹 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

LDKを2階に。国道沿いでも カーテンを開けて生活できる、店舗兼用住宅
建築家の髙須さんは奥さまが経営する美容室を第一に考え、自邸として店舗兼用住宅を建てること計画。店舗と住宅それぞれが機能的にも快適さにおいても申し分ない建物をつくりあげた。往来が激しい国道沿いの立地でも開放的に暮らせる秘密は2階に設けたLDKだという。素材感も存分に楽しめるこの家の秘密を探る。

出入り自由、誰もが使える通り土間。 美しい田園風景になじむ、切妻屋根の家
建築家の林田さんが自邸を建てるため選んだ土地は、一面に田んぼが広がる農村地帯にある。田んぼを眺めつつ生活できる平屋は、切妻屋根も美しくしっくりと風景になじんでいる。それだけではない。出入り自由、誰もが使えるパブリックスペースとして通り土間を設けるなど、本当の意味で地域に根付いているのだ。

公園の延長のような住まい。桜と共に過ごす大空間リビング
すぐ目の前の公園は、春になると見事な桜並木に。この景色を家にいながらにして楽しみたいというS様ご夫妻。「こもった感じが好き」というご主人と「開放的にしたい」という奥様の相反する思いを上手く実現させたのは、イノウエヨシムラスタジオの「1階の天井を高くしたスキップフロア」というプランだった。

暮らしが広がる土間、吹き抜けリビング…。 こだわり溢れる「住まい手オリジナルの家」
東京の人気住宅地に佇むS邸。お施主様であるSさんのこだわりが細部にまで行き届いた、まさに「住まい手オリジナルの家」である。Sさんの要望をしっかりと受け止め、妥協することなく形にしたのは、Lods一級建築士事務所の幸地俊一さん。二人三脚で実現した理想の家づくり。その詳細をご紹介しよう。

敷地の内外、庭と建物、建物内の空間…。境界を限りなく減らして「つなげる」ことで、人も街も伸びやかに暮らせる家
「border design(ボーダー・デザイン)」という屋号には、家族のつながりが薄れていると言われている今の時代にあって、そんな目に見えない境界線や、建物の内と外など物理的な境界線を意識して、空間づくりをしていきたいという鳥居さんの思いが込められている。設計事務所に依頼する=設計プランをゆだねてくれる人が多い。「だからこそ、施主の言葉になっている要望にはすべて応えつつ、言葉にならない内在的な要望を引き出し、要望や想像を超えられるように設計しています」。そんな鳥居さんの姿勢が存分に表れている実例のひとつがK様邸だ。

個性的な住戸が集うコーポラティブハウス。全住戸に庭付き一戸建ての豊かさを
奥野公章さん設計の『荻窪ロウハウス』は、集合住宅でありながら自分好みの住まいをつくることができるコーポラティブハウス。驚くことに全住戸が庭付き一戸建て感覚で住めるという。住戸の事例とともに、工夫を凝らした奥野さんの建築の魅力を紹介しよう。

いつまでも成長し続ける “手づくり感”いっぱいの平屋住宅
長閑な田園が広がる千葉県茂原市の郊外、周囲の風景に溶け込むように建っているN邸。新築から8年ほど経過したいまも、Nさんの「家づくり」は終わらない。Nさんの「いつまでも成長し続ける家」を紹介します。

明るい吹き抜けのLDK!いつも家族の存在を感じられる家。
共働きということで、休日に一気に洗濯などの家事をこなすというGさんご夫婦。そんな多忙なGさんが望んだのは、家事動線が良く、どこにいても2人の子どもたちの存在を感じられる家だった。随所に建築家・江藤さんのアイディアとセンスが光る、Gさん邸の家づくりを紹介しよう。

「使う」から「愛でる」。日々の移ろいを 切り取り小さな発見を楽しむ「眺める窓」
建て替えする家の設計を依頼された建築家の樋口さん。「庭と繋がる家にしたい」と要望を受け当初はデッキを計画したが、ヒアリングを重ねるうちに外に出るための動線よりも庭の景色の切り取り方が重要だと考えた。自然素材を多用した心地よさ、快適な動線を持つ家の魅力を高めたのは、大きな「庭を眺める窓」だった。


