
築40年の木造アパートが大変身
ペットも飼い主も心安らぐ、癒しの動物病院
この困難なリノベーション案件を、温かみある動物病院へと変貌させたのは、動物病院の設計経験も豊富な建築士、水石さんでした。
建物が広告塔 自然木の柱が演出する安らぎのファサード
「新規開業なので、顧客ゼロからのスタートだったのですが、この建物や中の様子を見て、通ってくださるようになった方も多くいらっしゃいます。建物が宣伝の役目を果たしてくれています」と語るのは、施主で当院の院長の唐木さん。
動物病院を新規開業するにあたり考えたことは、動物病院としての使い勝手は元より、見た目でも存在感のある建物にしたいということだったそう。
「大手建築会社に依頼すると、他の多くの動物病院と同じような型にはまったものになってしまうと感じ、個人の設計士さんにお願いしようと思ったんです」と話す唐木さんがいくつものWEBサイトや雑誌を見ていく中たどり着いたのが、当KLASICに掲載されていた水石さんの記事だったという。
「作品事例やお話の内容を見て、この人ならきっと格好良く仕上げてくれるだろうと思いました」
水石さんは、これまでも動物病院を数多く手がけ、動物病院のプランニングにおけるオリジナルの方法論を確立していたことも、依頼の決め手となった。
「動物病院は、診察室、手術室、X線室、犬舎など部屋数が多くなりがちで、その配置と動線が大切です」と水石さん。
実際、元住吉からき動物病院は、廊下を移動するのではなく、広い作業スペースを中央に配し、そこから全ての部屋につながる形式をとっている。また、診察室には出入り口が2つあり、1方は待合から患者さんが入るため、もう一方は作業スペースから病院スタッフが入るためのものと分けている。
これにより、廊下といった無駄なスペースをなくすとともに、回遊性を増しているのだ。
水石流の動物病院の定石は、機能面での快適さに留まらない。飼い主さんや動物たちが安心快適に感じられる工夫も数多く盛り込まれている。
「ペットや飼い主さんは、不安な思いでいらっしゃることが多いわけですから、安心感をもっていただける場所にすることが大事だと考えています」(水石さん)
その現れの1つが、「外から中が見られる、窓の多いファサード」だ。自然木のランダムな柱で囲まれた窓がいくつも重なる外観は、外から中の様子が伺える。とかく外から中の様子が伺いにくい動物病院があるなかで、ここではオープンな状態で、待合スペースやトリミングスペースなどの様子を感じられる。それによってこの動物病院で診てもらいたいということにつながっているのだ。
「あえてシャッターも取り付けませんでした。建物自体が看板の役割を果たしてくれると思っています」と水石さんはその狙いを語る。
2つめは柔らかみのある待合いスペース。動物病院では、動物に引っかかれる恐れがあることから、自然木を使うことは少ないという。それでもあえてここでは自然木を使った。
「管理者側目線よりも、患者である動物・飼い主さんが安心して待っていられる、居心地の良いスペースであることを最も大切にしたいと思ったのです」
リノベーションで新たな価値の創造
2階部分もシックな濃グレーの外壁を張り増したため古さをまるで感じさせないが、外観をよく見ると、2階には窓が並びなるほどアパートの面影がある。
しかも驚くのは、まだ2階に居住者がいる状態で施工されたのだという。
「木造の建物ですから、構造として既存の間取りを全く無視することはできません。その中で柱や筋交いを足したり引いたりして、また同時に耐震補強もしながら、使いやすいスペースを作り出しました」
外に並んでいる木の柱も、実は構造材を兼ねているものが多いのだという。また、診察室の壁も単なる間仕切りではなく構造的に有効な壁になっているという。
「あのアパートがこんなにガラリと変わるなんて驚いた」「どこでやってもらったの?」とご近所の方から建物のことについて聞かれることもあったと唐木さん。
それほど、このリノベーションが見事に築40年のアパートに新たな生命を吹き込んだのだ。
リノベーション物件は、構造や部材をイチから考えられる新築の物件よりも制約が多い。その制約の中で、安心安全な建物にするという大前提だけでなく、快適性やデザイン性をも満たしてしまう水石さんの手腕には感服するばかりだ。
近年、空き家が社会問題となってきている中、「リノベーションや耐震改修のニーズが増えてきているのを肌で感じている」と水石さん。
「今回、アパートから動物病院へというリノベーションを体験したことで、これまでの家から家といった同種間の刷新だけでなく、異種への大胆な転換ということにも大きな可能性を見出すことができました」と自信をのぞかせた。
近年の日本は、建築に限らず「古くなったら新しいものに」というスクラップ・アンド・ビルドが主流だった。しかし、その流れも「使えるものは使いつつ、新しい価値を付加する」という考えが浸透しつつある。いや、元々我々日本人はそうやって暮らしてきたのだ。
今回のリノベーション物件に、高齢化社会に伴う空き家問題の解決という光明を見出した気がする。今後増えるであろう、あっと驚くリノベーション物件の1つが水石さんの手によるものとなることは間違いないだろう。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 神奈川県川崎市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 156.24㎡ |
| 延床面積 | 220.12㎡ |
| 施主 | 動物病院 |
設計者情報
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