
時を経るごとに山の一部になっていく。
2つの眺望が楽しめる未来の古民家
家の上に位置する平地も絶景ポイント。
山の風景の一部になる、高さを抑えた平屋
土地は、この近辺に家族で暮らす家が欲しいと考えていた施主のTさまが偶然散歩中に見つけたという。道路に接する位置から山の上に向かって敷地が伸びており、宅地のほか、一段高いところにもうひとつ平地があった。ふもとへの見晴らしが見事で、「眺望を生かした家にして欲しい」というのが第一の要望だったという。
設計したatelier thuの坪井飛鳥さんは実際に現場を見て宅地からの眺めはもちろん、子どものための庭にしたいと聞いていた高い平地からの絶景に驚いたそうだ。田園の向こうに山々の連なりがより美しく見えるこの絶景を、下の宅地に建てる家が邪魔しないようにしたいと考えたのは当然のこと。土地の個性と眺望、両方を生かすならと平屋を提案した。
出来上がった家を高い平地から見下ろすと、視線が流れるように平野へと伸びていく。視線を遮らない建物は、同時に四季折々の美しさを見せる山の景色も壊さない。この場所に暮らしたいと望んだからこそ、唯一無二の風景を大切にしたいと思う気持ちが「Zen」をつくったといえるだろう。
絶景を気兼ねなく楽しむため
建物の形や高低差を上手に活用、視線を遮る
「高低差を利用しました」と坪井さんはいう。道路に面したふもと側の窓は、腰より高い位置に横長に開口した。道路と接してはいるが1段高い位置に家があり、さらに家の中でも上のほうに窓がある。道路を通る人が家を見ても、ほぼ天井しか視線に入らない。
逆に家の中からは、横長の窓のおかげで広い視界で眺望が楽しめるようになった。フレームで切り取られた景色はまるで絵画のようでもある。窓側にはカウンターが設けられ、朝日が昇るのを眺めたり、午後にはお子さまたちがおやつを食べたりと一日の様々な瞬間で活用されている。
緑深い山林の景色も大切にした。建物は山に向かって折れたL字型をしており、できたスペースには広々とした庭がある。道路に面した一辺の中心部分にLDKを設け、外側に子ども部屋を、折れた辺に水回りや寝室を配置した。山の斜面と建物で隣家からの視線を遮っているため、山側の窓は大きく切り取った。加えて庭は南西に位置しており、窓からは豊かに光が入ってくる。
LDKの山側の窓の外には広々としたデッキテラスも計画。敷地の高低差により、一般的な高さよりも地面近くに伸びるデッキテラスは、より自然に室内からの視線を山まで届ける。ふもと側の雄大な景色から山の美しい眺めまでが一つに繋がり、平屋が山の一部になったかのようだ。
さらに嬉しいことに、庭にいると目の高さに横長の窓があり、家の中を抜けてふもと側の眺望が楽しめるという。平屋は外側からの視線を遮る役目を果たしているが、同時に内側からは外へと繋げているのだ。
こうして、家族が気兼ねなく暮らせるようにプライバシーは確保しながら、眺望や自然を思い切り享受できる空間ができた。広々とした庭で子どもたちが元気に駆け回る様子も、LDKから見守ることができて安心だ。希望していたデッキテラスも叶えられ、そこでバーベキューをする日も楽しみにしているとのこと。眺望を楽しむことから生まれた居心地のよさが、日々の生活を一層豊かにした。
地元の素材を選び、構造も伝統に習って。
経年変化が楽しみな、未来の古民家
まず新建材は極力使わず、地元の高知の資材を選ぶことを意識した。幸運だったのは、T様のご親族が山を持っており、伐採した木材をたくさん保管していたことだ。梁や窓枠に加えてカウンターやテーブルなど、「Zen」で使用されている木材の半分ほどはご親族の山から持ってきたもの。工務店を通して購入したものに関しても、デッキテラスには土佐桧を、LDKと玄関で使用された漆喰は土佐の物を採用するなどこだわった。
また、伝統にも習ったという。「高知は台風も多く、そのせいか強靭な構造の家が多いんです」と3人。「Zen」の構造材も一般的なものより太くした。天井や柱など、構造材が現しとなった室内は見た目からもどっしり、がっしりとした印象が得られる。外壁も昔からよく使われている焼杉とした。
台風の雨についても考慮。広々としたデッキテラス部分だけでなく家全体で軒を深くし、雨が外壁に当たらないようにした。さらに、夏の強い日差し避けとしても役立っている。
LDKは山側の窓沿いに置いた薪ストーブを中心に、一体感が感じられる空間となっている。領域をあらためて仕切るようなことはしていないが、大黒柱が密やかにその役割を果たしている。
「古民家に」との要望からもわかる通り、Tさま一家の生活習慣はとてもシンプル。キッチンに炊飯器や電子レンジなどの電化製品は置かないとのことから、設えをすっきりと整えた。LDKにある収納も見せるスタイルを基本として極力少なめ。かわりに、キッチンから水回りに続く一角を書斎とかねてパントリーとしても使用できるようにした。過不足ない設備からくる空間のおおらかさが、使いやすさと居心地のよさを向上させている。
「Zen」に住まうようになってから、ますます暮らしを楽しんでいるというTさま。家族の思い出とともに、この家がどのように古民家の雰囲気をまとっていくのか。土地や風土になじみ、山の一部になる、その変化も楽しみだ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | Zen |
|---|---|
| 所在地 | 高知県南国市 |
| 敷地面積 | 437.1㎡ |
| 延床面積 | 91.71㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども3人 |
| 予算 | 2000万円台 |
設計者情報
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