
白浜の絶景を開放感に満ちた別荘で楽しむ。
インパクトある建物は宿泊施設としても成功
海を美しく切り取るV字の建物。
1棟貸しの宿泊施設としても運用できる別荘
土地柄を気に入り、別荘をつくるなら白浜がいいと考えていたオーナー。喧騒を少し離れた現在の場所に土地を見つけ、温泉が引けるエリアだったうえに、隣に食事のおいしいオーベルジュもあったことから購入を決めた。この施設を設計、土地探しから携わった藤本高志建築設計事務所の藤本高志さんは「高台にあり、斜面地なので隣地に家などが建つ可能性が低いことも、土地の購入の決め手のひとつになりました。眺望を確保できますから」と話す。
プランニングにあたっての大きな要望は、非日常が味わえる、インパクトがある建物にしたいということ。また、オーナーは計画当初から1階2階それぞれに客室を設け、自分が滞在するときは2階の客室を使用したいと考えていたという。
北には海が広がるが、建物と海の間にどうしても目に入ってしまうビルがあり、それを避けたいと考えた藤本さん。そこで提案したのが、重層長屋の構造を取り入れたV字型の建物のプランだ。V字は南側を起点として1階が北西に、2階が北東に伸びる。いずれも避けたいビルが見えない方角で、1階でも2階でも、遮るものなく海を贅沢に楽しめる。さらに、海側の先端に設けたテラスは軒と壁で囲って筒状にすることで、室内から見える景色を美しく切り取ることに成功した。
また北東に伸びる2階でもサンセットを楽しみたいとの要望を受け、北西側にぽこっと突き出るように和室を設けた。道路側から見ても1階テラスと2階和室、さらに2階テラスがリズミカルに並んでおり、とてもチャーミング。宿泊者は到着してすぐに、素敵な滞在を予感して心を掴まれてしまうだろう。
高い天井、海と空が見えるテラス、温泉。
非日常感をたっぷり味わえる室内空間
「癒(いやし)」と名付けられた2階は、4~5名での利用を目的としてつくられた。寝室を2部屋設けたのに加え、和室に布団を敷くこともできるため、実際には7名程度まで対応できるという。オーナーはご家族や弟さま一家と滞在されることも多いのだとか。
LDKは使い勝手のよいキッチンと、大きなダイニングテーブル、ゆったりとくつろげるソファーと必要な設備が揃っている。宿泊施設としても使用するため、散らかしにくいレイアウトを心がけたと藤本さん。たとえばキッチンのごみ箱。一般の住宅では隠すことも多いが、使い勝手を第一としてあえてオープンに設置した。
特筆すべきはLDK空間の天井の高さだ。切妻屋根を反映した天井は、ゆったり広めに確保した横幅とあわせて高さのバランスをとっているため、一般的な住宅よりはるかに高い。「日常的に生活する場として考えると、ちょっと落ち着きが得られにくいかもしれません。しかし、これだけ開放感が得られる空間はなかなかないですから、非日常感というコンセプトは十分に味わえるでしょう」と藤本さん。
さらに、テラスと室内を仕切る壁面をガラス張りにしたことで、開放感は一層強まった。ガラスが天井と接する部分に枠を設けていないため、天井がそのまま軒へと続き、室内と屋外の境界線もあいまいに感じられる。
非日常感を味わえる、もう一つの大きな設備がかけ流しの温泉が楽しめる浴室だ。浴室の奥にバステラスを設け、入浴中、気軽に一休みできるようにした。浴室とバステラスを仕切る戸を開け放てば外部と浴室が一続きになり、露天風呂のような雰囲気になる。
1階の「穏(おだやか)」も、内装のコンセプトは2階と同じくして計画。こちらは、2~3名向けの客室だ。
1階のテラスは、先端が一段上がっている。室内からフラットにつながるテラスの奥に、少し床の上がったテラスがもう1つあるのだ。その理由も、海を美しく眺めるため。1階テラスの先には隣地の植栽があるが、床を上げたおかげでその植栽の上から海を見下ろせるようになった。
開放感いっぱいの空間でくつろぎ、温泉を堪能し、テラスでわいわいバーベキューをしたり、静かなひとときをすごしたり。客室は、まさにリフレッシュするための空間としてこだわりを持って整えられた。
素材選びも設計も、オーナーとともに。
環境に馴染みながら、インパクトある別荘
ニュアンスを左右するデザインにも妥協はない。建物が重ならずに柱のみで2階を支えている箇所は、柱が目立たないよう若干内側に入れ込んだ。浮遊感がある2階部分に、思わず目を止めてしまう人も多いに違いない。
土地柄に合わせて計画したところもある。建具は木製のものを多用し、周囲の緑にしっくりと馴染むようにした。環境のおおらかさにも着目し、全体的に細部まできっちりとつくりすぎず、宿泊者にあわせて変化できるような雰囲気も表現した。
「オーナーと一緒に考えながら家づくりをしたいと考えています」と藤本さん。梁や柱など使用している木材の一部は、木材を扱う仕事をされているオーナーの弟さまも一緒に選んだという。選んだ木材を弟さまと藤本さんで切り出して手すりを製作するなど、ともに作業をしたことも。和室の壁紙に使用した和紙も皆で京都まで出向いて選んだ。
コミュニケーションをとりながら得た信頼でチャレンジした部分もある。例えば階段は蹴上に和の素材である桧を、床面に洋の素材のウォールナットを使用した。質感も違うこの2つの素材を混ぜて使うことはあまりないというが、「面白そうだからやってみよう」ということになったのだそうだ。仕上がりは上々で、オーナーの望む、インパクトがある高級感が空間に加わった。
「一緒に考える」といっても、ここまで付き合ってくれる建築家は少ない。完成した「テラス・ヴィラ・癒穏.PJ」は、オーナーがとても気に入ってくださったのはもちろん、オーナーが泊まれないことも度々あるというほどの人気施設になった。その理由は、藤本さんが時間をかけてオーナーのこだわりの真の意味を理解し、調和を取りながら魅力的に表現したからだろう。
基本データ
| 作品名 | テラス・ヴィラ・癒穏.PJ |
|---|---|
| 所在地 | 和歌山県西牟婁郡白浜町 |
| 敷地面積 | 416.18㎡ |
| 延床面積 | 246.67㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 1億円台 |
撮影:冨田 英次
設計者情報
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