
まるで避暑地の別荘のよう!
地域からも愛される、雑木の庭が気持ちいい住まい
森さんがかつて建てた住宅を見て設計を依頼
施主であるKさん夫妻は、ある住宅街で「素敵だな」と思わず見とれてしまったお宅に出会ったそうだ。傾斜地に立つ家の南斜面に木々が茂る庭が広がり、木製の窓も何ともいえない良い雰囲気を醸し出していた。Kさんは(家づくりは)一生に一度のことと思い切ってそのお宅の呼び鈴を押し、設計した建築家を紹介してもらったという。その建築家こそが森さんだった。「10年ほど前に、庭づくりを含めて家を建てたいという方の住宅を設計させていただきました。緑豊かなそのお宅をKさんが見て、ウチにご依頼されたんですよ」。そのような経緯もあり、Kさん夫妻とは初めからある程度同じ価値観を共有できていたという。別荘地のような雑木の庭のあり、暮らしの中で緑を感じられる家。そんな家づくりがスタートした。
Kさん夫妻が購入したのは、敷地面積225㎡という広々とした土地。土地の南側の間口が広く、南と西が接道している。第一種風致地区に指定されるため建蔽率は3割、緑化面積は3割以上という制約はあるが、「条件に恵まれたため、逆に選択肢があり過ぎて絞り込むのが大変でしたね」と森さん。どう庭を配置するか、車庫の位置はどうするか、玄関はどちら側にするかなど、さまざまな選択肢に頭を悩ませつつ計画を練った。
「どの住宅も同じだと思うのですが、設計に正解はありません。どんな敷地でも、どんな住宅でも無限に可能性があります。初めからプランをひとつだけに決めつけるのはもったいないですよね」。今回も手書きのラフスケッチを3案ほど描き、それを見ながら施主と話し合いを重ね、プランを形にしていったという。施主の具体的な希望は「部屋の中にいながら緑を感じ、心地よく長く住める家」。厳しい建蔽率の中で施主の要望を満たすには「平屋に近い形状の2階建てとする。1階に庭と続いた空間をつくることを基本的な方向としました。また老後も考え、長く住んでいただくためにも生活の中心は1階にある方がいいと思います」。
庭の緑を通じて地域の人々とつながる家に
2階には寝室とゲストルームを東西に配置し、2部屋をつなぐ廊下部分をワークスペースとした。ワークスペースとゲストルームは1階から吹き抜けとなっていて、ゲストルームは吹き抜け部分を障子で仕切ることができる。寝室のスライドドアを閉めるとクローズした空間となりプライバシーを確保。寝室の隣には納戸を設けた。
窓の外にはタイルを敷いた広々としたテラスが続く。タイルほぼメンテナンスフリーで、ウッドデッキに比べタイルの方が床がしっかりしているのが特徴だ。イスやテーブルを置いてもがたつきが少ないので、テラスで過ごすときにもストレスが少ない。テラスのうえに張り出した軒の深さは約1.5m。「雨による木製サッシの劣化を防ぐ役割を果たすとともに、夏は日差しを遮り、冬には室内へ光が届くよう、軒の深さと高さを計算しています」。
屋根は差し掛け屋根を採用。ファサードの高さを抑えるとともに、2階部分の居住空間も十分に確保する狙いだ。また、屋根が切り替わる壁にはハイサイドライトを設え、2階の採光と通気にも考慮。LDKの大きな窓から入った風が2階へと抜け、心地よい室内環境をつくり出している。「屋根は南側を4寸、北側を3寸と勾配を変えています。南側を4寸勾配としたのは屋根を見せたかったからです。やはり日本の家屋は屋根が見えた方が街の景観がよくなると思います」と、周辺環境の影響にもぬかりない。
大きな窓の向こうにはKさん夫妻が望んだ通りの庭の緑が広がっている。LDKの北西角に配置したキッチンからも庭がよく見えるのも魅力的だ。「造園は専門業者さんにお願いしました。夏は木陰ができ、冬は光が届くように落葉樹と常緑樹はバランスよく配置されています。また木々が程よいブランドとなり、昼間はカーテンがなくても外の視線が気にならないそうです」と森さん。
「これだけ大きな庭は水やりや雑草抜き、落ち葉拾いなど維持管理も大変です。ただ、Kさん夫妻さんはそれを厭うどころか楽しんでおられるご様子です。そういうお施主さんに出会えたことには感謝するばかりですね」と森さん。夫妻が庭の手入れをしている際には、道行く方から『いいお宅ですね』と声をかけられることもままあるそうだ。庭の木々が大きく生長していくにしたがって、別荘地のような雑木がある家は地域のオアシス的な存在になるはずだ。そして、Kさん夫妻はもちろん、周りからも長く、長く愛され続けることだろう。そう、きっと。
基本データ
| 所在地 | 愛知県名古屋市千種区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 255㎡ |
| 延床面積 | 121㎡ |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | K邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

“当たって砕けろ”と人気建築家にチャレンジした結果、理想以上の家が予算内で。
夫婦ともにマンション育ちで、一戸建てライフに憧れがあったNさん夫妻。当初は主に建売住宅を検討していましたが、雑誌で見た建築家・松本直子さんの建てた家に釘付けに。予算的にためらいがあったものの、思い切って松本直子建築設計事務所の扉をたたきました。

自慢したいデザインと心地よさ。空間を洗練させるプロの技!
「家づくりのために貯めた大金を、規格住宅に使いたくない」。それは、唯一無二のわが家を求める施主様がふと漏らした本音。建築家・松岡淳さんはその思いを真摯に受け止め、家中のどこにいても快適で心地よく、それでいて自慢したくなるほど「カッコいい」家を完成させた。制約の中で広さ・快適性・美しさを実現した、松岡さんならではの家づくりとは!?

店舗と母屋、程よい距離感で暮らしが交わる「ハナレ」の家
かつて城下町で、今も路地や町並みにその風情を色濃く残す埼玉県行田市。Kさんは子育てのため故郷であるこの地に戻り、ご実家の敷地内に家を建てようと計画。Kさんのお母様が住む母屋は残し、空いた土地に新居を建設しようと考えた。依頼を受けた金子さんは、1階はお母様が営む店舗、2階がKさんご家族の住居という、それぞれの生活が交わる「ハナレ」を提案する。

オーナーの思いを唯一無二の魅力として表現 自然と家族が集まるリビングを内包する家
モダンでシンプルな佇まいの家をお望みだったお施主さま。建築家の山口さんは、線を省き単純化することで要望に応えた。完成したのは、小さなキューブを組み合わせたような四角い家。内部は吹き抜けがあり開放的で、おおらかに空間がまとまっている。自然と家族が集まるリビングはどのように実現したのだろうか。

10年ぶり二度目の家づくりは予算大幅減額 困難を克服し叶えた明るく開放的な住まい
「家は一生に一度の買い物」といわれるなか、同じ建築家に再び依頼をする施主は極めて稀だろう。思いがけない展開で二軒目の家づくりに踏み切ったMさんが選んだのは、10年前に一軒目を手がけたhaの保坂裕信さんだった。しかし順調に進むかと思われたプロジェクトに突如降りかかった予算の大幅削減。一時は実現が危ぶまれながらも、明るく開放的な理想の住まいへと昇華させた保坂さんの真価に迫る。

街と人、路地裏の雰囲気に「なじむ」 距離感が心地いい住まい
家とはパーソナルな空間であると同時に、街を構成する一つの要素、社会的な存在でもある。街と互いを受け入れ合い、心地いい関係性を築きながら、歳月とともに風景に少しずつなじんでいく住宅。完成後も変化を続ける自邸について、辻林政憲建築設計事務所の辻林さんに語ってもらった。

オーダーメイドで家族の色に染まってゆく まっさらな麻のシャツのような住まい
「どんな家に住みたいか」は、「どんな服が好きか」と共通点がある。ハイブランドの服が好きな人もいれば、ファストファッションで流行のものを身に着ける人、機能・デザイン・価格のバランス、いわばコスパを重視する人がいるように、住宅に求めることも人それぞれ。市中山居の増木さんがつくる家をひとことで表すならば、「麻のシャツのような住まい」だ。

LDK36.8畳、リビング21.4畳、吹抜け5.5m 大空間と巨大な壁が目を引く、木造住宅
横浜市青葉区に位置する、敷地が広く高級感あふれる住宅街。その中でも、ひときわ目を引く外観の邸宅が誕生した。道路側に設置された巨大な壁が、道行く人の注目を集める。建物の内側にも多くの特徴が秘められている。特筆すべきは、大空間のLDKと大開口のガレージを木造で実現した点だ。本作品の秘密をご紹介しよう。

内外空間を緩やかに繋ぎ、視線カットも実現 高低差を活かした宙に浮くテラスの多機能性
愛知県清須市に誕生した、独創的な邸宅。高低差が80cmある敷地に、視界の良さを確保しつつ、プライバシーも守りたいという要望に応えた作品だ。高低差を活用した宙に浮くテラスは奥行きがあり、内外を穏やかにつなぐ。室内には段差を設け、前面道路から室内は見えない。この作品に込められた工夫の数々をご紹介しよう。








