
これからの生活に合わせたリノベーション。
動線と仕切りの変更で居心地も、使い勝手も
リノベーションで夫婦2人暮らしの空間に。
生活に合わせた家で、ストレスなく住まう
実はリノベーションは2回目で、前回は和室やLDKのリフォームに加えちょっとした土間を増築されたのだとか。ただ、暮らしてみてどこかしっくりこないというお悩みがあったのだという。加えて、家は2階建てだが、将来を考え1階のみで暮らせるようにしたいという希望もお持ちだった。
「納得した家で、ストレスなく暮らしたい」と依頼を請けたのは、hoku archidesign株式会社の大類真光さんだ。家づくりにおいて「家に生活を合わせるのではなく、生活に合わせた家を考えることが大切」をモットーとする大類さん。それはある程度間取りの可能性が狭まっているリノベーションでも変わらず、むしろリノベーションだからこそ、心を砕かなくてはならないと考えている。
プランニングは、2度目のリノベーションにあたりこんな雰囲気に、こんなものが欲しいとお施主さまが断片的に膨らませていらしたイメージから、どういう暮らしがしたいのかを見極めることから始まった。
本当に必要なものが見えてきたうえで、イメージを取り入れながらお施主さまの生活スタイルに合った家を提案。家具の雰囲気や、全体的なボリューム感においても、3D CADを利用し実物を見ているのと同じように確認できるため、完成時の「思っていたのとどこか違う」という違和感も防げる。これは、前回どこかしっくりこないと感じられていたお施主さまにとって、とてもありがたいポイントだっただろう。
「実はそんなに間取りとしては変わっていないんです」と話す大類さん。けれどもお施主さまは「とにかくとても満足できる家になった」と絶賛されている。要望の本質を見極め丁寧な対応を積み重ねることで、ライフスタイルに沿った、日常が充実する家に一新したのだ。
動線を変更し、家の使いやすさを向上
デッドスペースを魅力あふれる場所に変える
では何が変わったのだろうか。ひとつは動線だ。以前はLDKで過ごしているときでも、階段のある玄関ホールへ出て来なければトイレや浴室へ行けなかった。それを、仕切りを変更して来客も使用する可能性があるトイレ以外はLDKのエリアに取り込み、キッチンの前から洗面脱衣室、浴室、家事室へ進めるようにしたとのこと。動線が劇的に短縮され、効率よく洗濯などの家事ができるようになっただけでなく、洗面脱衣室と家事室の仕切りは建具を省きカーテンのみにしたおかげで、ゆとりある空間が生まれた。
さらに、キッチンカウンターの向きを変更。以前はリビングダイニングと対面する形で置かれていたが、キッチンとダイニングテーブルを横並びで計画した。流れるようにキッチンとダイニングを行き来できるほうが、食事の準備や片付けがしやすいからだ。
壁際には、一方はご要望だったベンチを、もう一方にはカウンターを設けた。カウンターの窓から見えるのは隣地の庭の借景だが、「この窓は以前活用されておらず、せっかくの美しい木々が楽しめるようサッシや窓の素材を変えました」と大類さん。生活するうえで心が華やぐような新しい発見を示してもらえるのも、建築家によるリノベーションのひとつの醍醐味といえるのではないだろうか。
ダイニングテーブルからさらに横へ移動すると、前回の増築部分、現在は「ヌック」と呼んでいる、床レベルが1段下がった土間エリアがある。以前はエリアの半分がスキップフロアのようになっており、うまく使用できていないようだったためそれは取り払ったという。そのうえで、以前リビングに置いていたソファを持ってきたり、ラグを敷いたり、植物を置いたりしてくつろぎの場に生まれ変わった。コンパクトな面積ながら、床が低く、さらにスキップフロアが取り入れられていたおかげで天井も高いヌック。LDKでの居心地と異なる居場所があるのはありがたい。さらには視線の高さが異なるため、同じ空間でも各々が干渉しすぎずに過ごせるようになった。
あらためて、ほぼ間取りは変わっていないということに驚いてしまう。暮らしぶりを見極めれば、以前の住まいを生かしながらデッドスペースを解消し、使い勝手よい家に生まれ変わらせることができるのだ。
自然素材にこだわった気持ちのいい家を、
工夫や配慮でコストを抑え実現する
「できるならば自然素材を提案したい」と語る大類さん。床には屋久島産の杉材を採用。断熱材が下に入っているおかげで温かいのに加え、素材そのものの触感も柔らかく気持ちがいい。天井もラワン合板を張ったり、梁が表しの部分をつくったりと木材の温もりが存分に感じられる空間を演出した。
壁は漆喰仕上げ。ただ、壁を剥がしてやり直したのではなく、以前のクロスの上から塗ったのだという。コストは抑えつつ、自然素材ならではの空気感を室内にもたらすことができたとのこと。
さらに、カーテンを開けておける窓が増えたことで自然光もより入るようになり、開放感も高まった。「自然素材が持つ機能性という点ももちろんあるのですが、もともと人は自然の中で暮らしているわけですから、そういう雰囲気が感じられる環境を整えたいと考えています」と語る。
定年を迎えられ、リノベーションを決意されたお施主さま。ご自宅が快適・安全で、適度な距離感を保ちながら暮らせる家に生まれ変わったことで、これからの夫婦2人暮らしがより楽しみになったのではないだろうか。この家を見ていると「家に生活を合わせるのではなく、生活に合わせた家をつくる」という意味がよくわかる。そしてこの満足感はきっと、大類さんが「暮らす人の生活」を長い目で捉え、細かな心配りを加えながら表現するからこそ得られるものなのだろう。
撮影:長岡信也
基本データ
| 作品名 | 北町にある家(リノベーション) |
|---|---|
| 所在地 | 山形県山形市 |
| 敷地面積 | 204.7㎡ |
| 延床面積 | 164.08(うちリノベーション面積:1階部分90.01㎡)㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 〜2000万円台 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

築古民家をサスティナブルな人気物件に。 設計の力でTotal winなリノベーション
築古の民家の店舗用リノベーションに協力した、ムービング・アーキ一級建築士事務所の李孝哲さん。どんなテナントがどんな風に使うかわからない中、汎用性の高いサスティナブルな空間を設計。早々に入居が決まる人気物件に生まれ変わらせた手腕とは?

中古物件リノベの新手法!?惚れ込んだ空間をさらに自分仕様に!
建築家と建てた一戸建てに一目惚れし、中古で購入したTさん。より自分たちの家族にあった住まいにしようと思ったとき、迷わず相談に行ったのは、新築時に設計した建築家、河辺近さんのところでした。

典型的な2DKに動線を与えた、間取りに浮かぶ「T」の字とは
築20年程の鉄骨3階建て賃貸アパートメント1室のリノベーション。1階の端の空室にこのアパートのオーナー自身が移り住むということで、改装することとなった。特定の入居者が想定されているいうもののこれは賃貸物件であり、他の部屋も近い将来空室対策のために改装が必要な状態にある。ヤマサキアトリエの山崎さんは、そのモデルケースとなることも考えて間取りを検討した。

家具や建具は全てオリジナル。フルリノベを 選んだからこそできたフレキシブルな住まい
居を構えるにあたり、中古マンション購入後、フルリノベーションを選択した建築家の池田さん。おかげで、希望するエリアに住まうことができたという。この選択により叶えられたのは立地条件だけではない。ライフスタイルに合わせて自在に変化する家を、こだわりの家具、贅沢な内装でつくり上げることができた。

行政も納得!安全と癒しを、街と住み手に提供した奥の手とは!?
O邸では敷地内にあった土留め(どどめ)を直す必要に迫られていました。通行人の安全確保には不可欠な工事でしたが、莫大な費用がかかるうえ、O邸には特に得るところがありません。ところが、建築家の窪田浩之さんが提案した、ある工夫をしたことで誰もが納得のいく改修工事になりました。

家族が集まるLDKをリノベーションで実現。 移住されるお施主さまの一番の味方は建築家
東京から三島へ移住を決められたお施主さま。昔ながらの間取りの物件を、家族の暮らし方に合わせリノベーションしたいとお望みだった。依頼を受けた建築家の武本さんは、壁を取り払い、視線の抜けもつくって見事に実現。それだけではない。細やかな気遣いでお施主さまのこれからの暮らしを期待に満ちたものにした。

暮らし方はそのままに、思い出の母屋を一新 桜を望むテラスを備えた「風が通る家」
T邸が建つのは、埼玉県・所沢駅から徒歩圏内にある住宅地。古くからの農家の屋敷が多く、住民同士の交流や文化が色濃く残る土地だ。設計を担当したのは、mizmiz design・水野憲司さん。水野さんが家づくりにあたって大切にしたのは、長くこの土地で暮らしてきたTさんの「暮らしの物語」を丁寧に想像し、それを新しい家で再現することだった。

趣味も仕事も!「思い出の実家」のリノベは生き方をどう変えた?
子どもたちも独立し、現在はふたり暮らしだというKさんご夫婦の住まいは、以前は奥さまの実家だった一軒家。建築家・秋山怜史さんはご夫婦の願いに真摯に向き合いながら、この家に詰まった大切な思い出は残しつつ、さまざまな工夫を凝らしてより住みやすい空間へとつくり替えた。

築50年のマンションをリノベーション 自然と新しい関係をつくる開放的な住まい
これまでと同じエリアに居を構えることを決めたお施主さま。選んだのはビンテージマンションのリノベーションだった。都心にありながらも身近な自然を家の中に取り込み、日射や風、雨音などを感じながら暮らせる住まい。建築家の鎌松さんは、室内を開放的なつくりにすることでそれを叶えた。

