
人とコトが交わり可能性を探る実験場
オルタナティブオフィス SOGEN
ショールームであり交流の場となる
狙いを秘めたオルタナティブオフィス
そんな街の一角に、一風変わった拠点を構えた建築家がいる。「YURAGI ARCHITECTS」を主宰する宮城さんだ。独立後最初に構えた場所は、自宅でもなく、マンションの一室でもない。かつて地域住民が通った「元クリニック」の跡地だった。
多くの建築家は、独立して最初に事務所を構える際、自宅の一部を仕事場にしたり、賃貸マンションの一室を借りたりしてコストを抑える。しかし、宮城さんはあえてその選択を取らなかった。
「自分の建築やデザインを、写真や図面だけでなく実際に体験してもらえる場所をつくりたかったんです。」と宮城さんは語る。
潤沢な資金のないスタートラインに立ったばかりの建築家が、単独でモデルハウスを持つことは不可能に近い。そこで宮城さんが選んだのがオフィスを自社ショールームとして機能させるという選択だった。
その背景にあったのは、設計事務所の枠組みそのものを問い直したいという思いだ。目指したのは、働く場所であると同時に、人や活動が緩やかに交差する「オルタナティブオフィス」。空間とコトを起点に、人と人との関係性が循環する仕組みを構想していた。
平常時はシェアオフィスとして運営し、友人のデザイナーJAROSさんをはじめ、異なる分野のフリーランスやクリエイターが集う場とする。さらに撮影スタジオやレンタルスペースとして活用しながら、自らマルシェやワークショップ、お茶会なども企画する。
単なる貸し空間ではなく、新たな出会いやプロジェクトが生まれる「街の余白」のような場所を目指した。
だからこそ、拠点は街との接点を持ちやすい1階でなければならなかった。中央線・京王線沿線を歩き回り、理想の場所を探し続けた。しかし、限られた予算と路面店という条件は厳しく、なかなか納得のいく物件には巡り会えなかったという。
そんな中で出会ったのが、永福町駅から徒歩5分ほどの物件だった。
「最初に見たときは以前のクリニック状態が残っていて、すぐに完成形が見えたわけではありませんでした。ただ、駅からは近く商店街からは離れた場所で、周囲は静かで街との距離感が絶妙だったんです。落ち着いて仕事ができる一方で、ふらりと人が立ち寄れる。ここなら、自分たちが思い描く場がつくれると直感しました」
建築をつくるというより、まずは人が集まる「状況」をつくる。その試みの舞台として、この場所は十分な可能性を秘めていた。
こうして、元クリニックのリノベーションというプロジェクトが幕を開けた。
1つ目は、「働く場としての徹底的な快適さ」。
様々な作業を可能とする大きなデスク、切り替え可能な打ち合わせスペース、そしてイベントや食の企画にも対応できるキッチン。単なる設計事務所ではなく、多様な活動を受け止められる余白を備えた場を目指した。
2つ目は、ワンルームでありながら単調ではない空間をつくること。
既存躯体のコンクリートやタイルを活かしつつ、新たに左官や木、鉄など素材ごとに異なる表情を散りばめた。移動するたびに空気感が少しずつ変わることで、空間に自然な奥行きと発見が生まれている。
そして3つ目が、このプロジェクトを宮城さん自身の検証の場にすることだった。
解体や内装はプロに委ねながらも、仕上げの工程は自ら手を動かした。もちろん予算的な理由もあった。しかしそれ以上に、自分のオフィスだからこそ多くのことを試してみた。
「施主のプロジェクトでは、どうしても確実性が求められます。だからこそ、自分の場所では思い切って実験してみたかったんです」と宮城さんは語る。
例えば木部に施した鉄錆染色もその一つ。鉄と酢から様々な種類の溶液を作り、木材の種類による反応の違いを何度も検証しながら、自ら刷毛を握って仕上げていった。
それは単なるDIYではない。未来の施主に提案するための研究でもあった。
「床を自分で塗る、家具を自分で仕上げる。そういう体験は建物への愛着を大きく変えてくれます。だからまずは自分で試してみたかったんです」
実際に手を動かしたことで、職人の技術や判断の積み重ねにも改めて気づかされたという。
「図面では分からない難しさがたくさんありました。普段私たちの設計を形にしてくれる職人さんへの尊敬が、以前よりずっと大きくなりました」と、宮城さん自身にとっても大きな収穫となったようだ。
緻密なディテールが魅せる空間が
500人をつなぐ場へ育った。
以前の用途を知る人でも、扉を開ければその姿に驚くだろう。そこに広がるのは、建物の構造を大胆に現した約64㎡のワンルーム空間だ。
しかし、この空間の魅力は単なるスケルトンデザインではない。
一般的なインダストリアル空間に見られる雑然とした配管や設備は極力隠し、コンクリートの力強さの中に細かなディテールを散りばめた。無骨さと繊細さが同居する空間は、まさに宮城さんの設計姿勢そのものだ。
オリジナルデスクや照明、造作キッチンに至るまで、その多くが実験と試行錯誤の成果である。
だが、SOGENの本当の価値は空間そのものではない。
完成後、この場所ではマルシェやワークショップ、お茶会、交流会などが定期的に開かれ、約2年半で400〜500人もの人々が訪れた。建築家、デザイナー、クリエイター、地域の人々。異なる背景を持つ人々が偶然出会い、新しい会話や企画が生まれていく。
そして実際に、この空間に共感された来場者から設計を依頼されたこともあったという。
SOGENは単なるオフィスでもショールームでもない。
人と人、人と場所、人と活動をゆるやかに結ぶ場であり、宮城さん自身が建築の可能性を探り続ける実験場でもある。
。
建物をつくる前に、まず人が集まる状況をつくる。
そんな発想から生まれたこの場所では、今もなお、人とコトをつなぐ場として機能し続けている。
撮影:白井晴幸
間取り図
基本データ
| 作品名 | SOGEN |
|---|---|
| 所在地 | 東京都杉並区 |
| 延床面積 | 64.1㎡ |
| 予算 | 1000万円台 |
| 施主 | YURAGI ARCHITECTS |
設計者情報
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