
お客様も社員も、地域の人も居心地良い
「三方よし」のショールーム
大学や専門学校でも教鞭をとり
「住宅」と「店舗」両方の設計に精通
総合建設業の株式会社近藤組、リフォーム業の株式会社プラスワンが共同運営する新築戸建住宅ブランド「STYLE・K」のショールームだ。長年に渡りマンション建設や建売住宅を手掛けてきた近藤組が、新築注文住宅事業に注力するにあたり、自社施設の1階に設けたのがHito Ieだ。
この設計を手掛けたのが、愛知県を中心に活動する建築家トミタ建築設計スタジオの富田崇さん。富田さんは、これまでのキャリアで、戸建て住宅はもとより飲食店・事務所などの建物の設計に携わってきたほか、大学や専門学校で学生たちに建築を教えるという活動も行っている建築家だ。
「私が教えている専門学校に、OBを通じて『住宅と店舗両方に精通している建築家はいないか?』という問い合わせがあり、私が適任だろうということで紹介を受けたのがきっかけです」と富田さん。
一般的なショールームは、自社の製品や技術などを理解・体験してもらうことと同時に、「素敵」「かっこいい」と思ってもらえるような空間にすることが重要だ。そのため、デザイン性やディスプレイに長けた専門の業者に依頼することも多い。しかしハウスメーカーのショールームとなると話は変わってくる。訪れる顧客は「この会社がつくる家はどんなだろう?」ということが知りたかったり、「ここに依頼をしたら、自分の家はこんな風になるのか?」と想像するために訪れる。そのため、デザイン性を追求するだけでなく、現実の暮らしに則した空間である必要がある。とはいえモデルハウスとは違い、本当の住宅というわけでもない。だからこそ「住宅」と「店舗」の両方を数多く手掛けてきた富田さんが選ばれた。専門学校であれば、講師陣の中には富田さん以外にも建築家は数多くいるだろうし、伝手もあることだろう。その中から富田さんに白羽の矢が立ったということは、それだけ富田さんの実力を信頼しているからの裏返し。富田さんはプロからも選ばれる建築家なのだ。
地域に根差す数十もの講座を提案
設計に加え社員教育も頼まれる
「店舗でありながら住宅要素もあるという依頼は、一生に一度かもしれないやりがいのある仕事だと感じました。完成まで1年ないタイトなスケジュールでしたが、精一杯取り組みました」と富田さん。
そんな思いを持って提案したのが、リビングやキッチンなど、生活の1シーンを切り取ったようなコーナーを設けること。富田さんは、このショールームを「素材サンプルや設備の見本を見せる場」としてだけでなく、お客様が「自分達の今後の暮らしを想像できる場」したいと考えた。それは、裏返せば「我々が提案する暮らしはこうです」という想いを具現化している場でもあるということ。
さらに富田さんは、このショールームを家づくりをするお客様のためだけでなく「地域の人々にも開かれた場」とすることも提案した。このショールームには、ガスとIHのメーカー違いの2種類のキッチンを使用可能な状態とした。お客様に使い勝手の違いなどを感じてもらうためだが、そのキッチンを利用し料理教室などを開くというアイデアだ。
「地域に根差したカルチャーセンターのようなイメージです。スパイスカレー講座など、約80のカリキュラムも提案しました」と富田さん。
さらに富田さんはもう1つ別な提案も行った。それは、社員の教育プログラム。
近藤組では、新築注文住宅に注力するにあたり、社員教育に課題を抱えていた。マンション販売や建売販売の経験は豊富でも、注文住宅となるとまた違った知識が必要で、このショールームオープンまでにスキル向上を図りたいという想いがあったという。
「アドバイスのつもりで『こういったことを勉強されると良いですよ』といった形で企画書をお渡ししたんです。そしたら『富田さんが引き受けてくれないか?』という形でそちらも請け負うことになりました」と富田さん。
こうして週に1度全20回の勉強会もスタート。住宅の歴史といった基礎から始まり、過去の建築の解説、構造や断熱といった専門的な話、さらにはコミュニケーション術に至るまで、内容は多岐に渡る。それをできる建築家はそう多くはないが、富田さんは大学や専門学校で教鞭をとっていた、まさにうってつけの人材だったのだ。
「若手社員だけでなく、ベテランの方や建築士の資格を持つ方など、多くの社員さんにご参加いただき、緊張したことを覚えています。皆さん熱心に勉強されていました」と富田さんは語る。
この講座は、ショールームが完成した現在でも、続いているのだという。
地域に開く懐の深さと
訪れた人が、快適に過ごせる上質空間
もともと、無機質な箱のような横長の建物だった外観に、国産ヒノキを使ったルーバーを取り付け、デザイン性や木の温かみを感じさせる外観とした。
建物正面の駐車スペースだった場所は広場とし植栽を施した。訪れた人をもてなす庭のような雰囲気だ。また人の動線をレンガ敷にしたり、エントランス部分に斜めの壁を取り付け懐へ抱くようなイメージを持たせるなど、家に関心がある人だけでなく、地域の人々もふらりと立ち寄りやすい環境を目指した。
「ここは混雑時には駐車スペースにもなりますが、イベント時にはここにキッチンカーが来ることもあるので、地域の方々も来ていただいています。」と富田さん。
自動扉を入ってすぐ右側、フローリングの床のスペースがレセプションコーナー。商談に訪れた人が少しの間待ったり、簡単な打合せをする場。「初めて訪れた人に緊張感を持たせたくない」と富田さんが語るように、ここは白い壁とカウンター、木の家具で構成され、カフェのような雰囲気だ。それでいながらも、ルイスポールセンの照明や、宙に浮く植物を飾るなど、高いインテリア性も持たせた。
レセプションコーナーの先には、テイストの異なる3つの個室が並ぶ。家のダイニングのようなアットホームな空間のRoom1は通常の打合せ用、絨毯が敷かれ応接室のような上質空間は、主に契約時などに使われるRoom2、オフィスの会議室のようなマテリアルルームは、カタログやサンプルが近くに置かれ仕様を検討・決定するのに使われるのだという。部屋のイメージをそれぞれの用途に応じた雰囲気に合わせることで、お客様や社員がリラックスした状態で話せたり、格式高い部屋で落ち着いて契約に望めるようにという富田さんの配慮だ。
フロアの中央部は、家の中といったイメージの小上がりに。お客様が将来の自分の家をイメージできるようリビングやリーディングコーナー、キッズコーナーが並ぶ。それぞれに富田さんがセレクトした家具やインテリアが配され、上質かつ使いやすさを感じられる空間となっている。
「打合せに来られたお客様がソファやハイバックチェアで寛がれたり、お子さんがキッズコーナーでお絵描きをして待っていたり。リラックスされて、まるでご自宅ですごされているようです」と富田さんが語るように、自分で体験して居心地の良さを感じられる場でもあるのだ。
キッチンコーナーには、メーカーや仕様の異なる2つが並ぶ。片方はガスでもう片方はIH。食洗器もオーブンも全て比較検討できるよう、違う製品を入れた。そして他のショールームと大きく違うのが、このキッチンが使用可能な状態であること。だからこそ、このキッチンを使って料理教室などが開催可能なのだ。
キッチン脇には、富田さんが設計した8人掛けの大きなテーブルが2つあり、ホワイトボードにプロジェクターまで完備しているため、料理以外の講座も開催できる。実は現在、社員教育もこの場を活用しているのだという。さらにテーブルを移動させスペースを作ることで、ヨガ教室を開いたり、年に数回メーカーが設備を搬入し展示会を開くこともあるのだという。
こうして、お客様、社員さらには地域住民という「三方よし」のショールームが出来上がった。
このショールームが出来て「社員のスキルも向上して営業力もアップした」「こういう場を持てる会社であることで、お客様の信頼感を得ることに繋がっている」「短期間でこれだけのことを成し遂げてくれて感謝している」と高く評価いただいたという。
「私は『長生き』『長持ち』『長続き』をモットーにしています。建築も同じで作ってお終いではありません。建物もそこに住まう人の暮らしも永続できるものでありたいと思っています。今回のお仕事を通じて、そのモットーにも共感いただき、Hito Ieでの家づくりも同じような考えで取り組んでいただいています」と富田さんは語る。
Hito Ie完成後も、定期的に社員教育の講座が開かれたり、富田さん自身が講師となったマサラテャイ講座を開催したり、さらにはこだわりのあるお客様の場合に、設計に富田さんが加わるといった、関わりも「長続き」もしているのだという。
ショールーム作成というモノづくりをきっかけに、「トミタイズム」の家づくりが広まり、続いているのだ。
基本データ
| 作品名 | ショールーム「Hito Ie(ヒトイエ)」 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県知立市 |
| 敷地面積 | 756㎡ |
| 延床面積 | 516㎡ |
| 施主 | 株式会社近藤組 株式会社プラスワン |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

祖父が設計した家が新たな形で生まれ変わる メリット多数の「増改築」という選択肢
高校時代からの友人だった施主から、祖父が設計したという旧家の建て替えの相談を受け た建築家の鈴木隆介さん。新築のプランをいくつも作ったにも関わらず、あえて手間もか かり難易度も上がる、既存の建物を活かした「増改築」プランも提案。施主のことを第一 に考えた増改築とは?

設計の力で、変形敷地をメリットに。 リビング感覚で憩えるウッドデッキのある家
建築家の古川真治さんが設計した自邸は、屋外の開放感と室内のくつろぎを楽しめるリビングのようなウッドデッキが大きな特徴。変形敷地の個性を最大限に生かし、理想的な住環境をつくり出している点にも注目だ。

これがスイートルームの居心地!多彩な使い勝手と贅沢なあしらい
「庭はいらない。夜、ゆっくりくつろげる家がいい」。多忙な日々を送るMさんの言葉で建築家の北園徹さんがつくったのは、インナーガレージや屋上テラスのあるスキップフロアの家。家族や友人との団欒も、静かなひとりの時間も楽しめる魅力的な間取りとは?

今日は「お気に入りの場所」で何をする? 家族がゆるやかにつながる楽しい家
約26坪の計画地で「5人家族が絶妙な距離感で、ゆるやかにつながる家」という要望に応えたユウ建築設計室の吉田祐介さん。「広さに制約があってもこんな手があるのか……!」と膝を打ちたくなるプランと、独特のかわいさを備えたデザインは必見だ。

快適動線と洗練デザインに大満足。 「図面の見える化」で納得の家づくり
完成イメージを写真のような画像にしながら、納得の家づくりを進めてくれる建築家の完山剛さん。M邸では少ない要望を見事にふくらませ、大満足の住宅を設計。洗練されたデザインや快適動線、吹抜けを活用した採光など、参考にしたいトピックが満載の家だ。

内外空間を緩やかに繋ぎ、視線カットも実現 高低差を活かした宙に浮くテラスの多機能性
愛知県清須市に誕生した、独創的な邸宅。高低差が80cmある敷地に、視界の良さを確保しつつ、プライバシーも守りたいという要望に応えた作品だ。高低差を活用した宙に浮くテラスは奥行きがあり、内外を穏やかにつなぐ。室内には段差を設け、前面道路から室内は見えない。この作品に込められた工夫の数々をご紹介しよう。

沖縄の気候風土、文化を熟知した匠がつくる 混構造と赤瓦屋根の二世帯住宅
本土と気候風土や文化が大きく違う沖縄の家づくりには、沖縄ならではの知識や工夫が必要。沖縄で生まれ育ち今も沖縄を中心に活動を続ける建築家、山城さんは建築士歴50年を超えるベテラン建築家。沖縄を熟知した匠の家づくりに迫る。
-1-640x428.webp)
光と風が心地よく通る!傾斜地を生かした「土間のある家」
ずっとマンション暮らしだったこともあり、憧れの一軒家を建てることを決意したⅯさんご夫婦。希望したのは、趣味の革細工や裁縫をするためのワークスペースと外につながる庭がある家である。購入した土地は、東側に位置する川に向って緩やかに傾斜する敷地。設計を担当した平山教博さんがトライしたのは、土地の利を生かし、光と風が心地よく通る家づくりだった。

建材の伐採に施主様も参加! 安心とぬくもりの「自然素材の家」
シンプルな木の家をテーマにこだわり、建築材の“地産地消”に取り組む建築家の福田義房(ふくだ・よしふさ)さん。川越市にある一級建築士事務所アーキクラフト代表であり、森と町を結ぶNPO法人「山のめぐみ」理事なども務める福田さんが設計する家は、何とも言えないぬくもりと安らぎに満ちている。埼玉県東松山市のH邸を例に、その細やかな仕事ぶりを見てみよう。


