
それぞれ異なる魅力をプラスした
住む人みんなが大満足の賃貸併用住宅
まるでパズルを組み立てるように
3つの住戸を配置する
「賃貸併用住宅をご希望の場合、お施主様がまず懸念されるのは入居が決まるかどうかです」と平井さん。そのため、賃貸部分に「ウリ」になる部分をつくることが重要なのだという。そこで平井さんは3階建ての内部をパズルのように割り振り、賃貸A住戸とB住戸、そして自宅の3住戸をそれぞれ魅力的なものになるよう配置した。
大きな特徴のひとつは共用の玄関や廊下が必要な「共同住宅」ではなく「長屋」の建物だということだ。玄関をそれぞれに設けることで、プライバシー性が高まり、より自宅感の強い住戸になっている。
A住戸は1階の半分以上を使ったフラットな1LDK。静かな空間でくつろげるよう、車道から離れた奥側に寝室を配置した。寝室からは日当たりも良好なテラスに出ることができる。テラスは隣家と接しているため壁を設置したが、壁面がフレーム状に構成された吹抜けになっている。騒音や他人の目はシャットアウトしながらも頭上には青空が広がり、屋外の開放感を感じられて気持ちがいい。
B住戸も間取りはA住戸と同じ1LDKだが、1階から3階まで3層に広がるメゾネットとなっている。1階の玄関から2階に上がると寝室や浴室などプライベート空間が、3階は見晴らしのよいLDKがある。周辺は2階建ての家が多く、3階まで上がれば空を見渡して景色を楽しむことができるという。B住戸の一番魅力的な部分だ。
S様は賃貸2住戸+自宅の設計を他社にも相談していたとのことだが、平井さんのプランが選ばれた理由はどこにあったのだろうか。
バランスだったのでは、と平井さんは言う。S様がご自宅部分に一番要望されたのは広々としたリビング。ところが、賃貸部分に魅力付けをしようとすると自宅が小さくなる、または自宅で十分な広さを確保すると賃貸はワンルームが2住戸といった単調なつくりになることが多いのだそうだ。
フラットに広いA住戸、明るく眺めのよいB住戸、S様が要望された広々としたリビングを有するご自宅。「どこかを犠牲にするのではなく、賃貸2住戸それぞれ魅力を持ち、施主様のご自宅へのご要望も全てが成立したプランになったのではないかと思います」と平井さん。
実際、A住戸もB住戸もすぐに入居が決まり、S様もお喜びになっているそう。ちなみに、S様のまだ小さいお嬢様が成人した後は、ご夫婦でフラットなA住戸に住み替えることもお考えなのだとか。これも、ひとつの建物に複数の住戸が入る利点の一つといえるだろう。
バルコニーまで一続きと感じる
広々としたLDKを実現
3階には主寝室と子ども部屋、客間としても使える多目的室や、ご主人の書斎がある。書斎は、約3.5㎡の小さなスペースだが、最近はご主人がそこで仕事をすることも増え、つくってよかったとおっしゃる一角になっているのだとか。
一番のご要望だったゆったりとしたLDKは2階に配置した。賃貸・自宅含めた2階フロアの大部分を占め、スペースを贅沢に取った空間だ。ダイニングテーブルやソファを置いても窮屈さを感じず、家族が思い思いにくつろぐことができる。
LDKの大きな窓に続くのは、賃貸Aのテラス上部に当たる吹抜けに面したバルコニー。だが、すぐ向こうに隣家の玄関があるため、視線を遮る必要が生じた。平井さんは「こちらからも相手からも見えてしまうのは嫌ですが、光は入れたいですよね」と可動式のルーバーを提案。普段は光が抜けるような角度にしておき、台風や雨が吹き込むときなどはぴたりと閉じることもできる。吹き抜けやルーバーのおかげで空間に広がりが生まれ、風も通り心地よいスペースになったバルコニーでは、ご主人がベンチでお酒を楽しまれることもあるのだとか。
ルーバーと、吹き抜けにはもう一つ役目があるという。リビング空間をより広く、のびやかにすることだ。そのために「バルコニーと吹き抜けも室内的な感覚になるように演出しました」と平井さんは言う。バルコニーとリビングの床材も雰囲気を合わせ、室内から一続きに見えるよう段差なくフラットにつなげ、一室感を高めたのだ。
バルコニーからLDKを挟んだ真向いには、天窓から豊かに光が入る家事室を設けた。奥様は「洗濯してからテラスまで遮るものなく一直線に行けるのが嬉しい」と実際住んでからその使いやすさに驚き、喜ばれたそう。とはいえ、部屋干ししたい場合もある。そんなとき、洗濯物で室内がいっぱいになってしまうことは避けたかった。
そこで平井さんは昇降式のバーを設置。干した洗濯物を上に持ち上げてしまえば邪魔するものがなく下で作業ができ、空間の使い勝手が格段に上がったという。さらにバーを上げた状態でLDKにつづく擦りガラスの扉を閉めれば、リビングから完全に洗濯物を隠すことができて急な来客時も安心と、奥様お気に入りの理由がまたひとつ増えた。
キッチンはカウンターを壁面に寄せたオープンスタイルに。一般的にはパネルを用いることが多い前面の扉も本物の木材を使用するなど、キッチンもLDKのインテリアの一部として捉え、フルオーダーでつくったという。キッチントップもモルタル風の樹脂材を採用し、風合いある仕上がりになっている。
家具やインテリアがお好きだというS様夫妻の好みにしっかりと寄り添い、床材や壁面の素材にもこだわったという平井さん。S様が選んだ家具もしっくりと馴染む、上質な空間をつくり上げた。
内部空間とともに
そこで暮らす人の視線もデザインする
すべての窓が効果的に配置されていると感じられるS邸。窓から見える景色は隣家が迫っていることがそんなに意識されないことにも驚く。それについて、どんな窓でも、空が見えたり風が通ったり、心地よい暮らしに繋がるものにしたいという平井さん。「窓の位置などから人の動きや視線をデザインすることが仕事だと思っています」
最後に今回の設計で印象的だったことを聞いてみると、「既製品を多く使用しました」という意外な答えが返ってきた。素材や仕上げは普段から希望をもとにいくつか紹介しながら、お客様に選んでいただくのだという。「アドバイスはしますが、選んでいただくのはお客様。私はそれをコーディネートするイメージです」とのこと。今回は、普段は自ら設計することが多い扉などの部分も既製品から選んでいただいただき、コストを調整したのだそう。「既製品も上手に取り入れると予算を抑えながらいい雰囲気につくれるのだな、と今回のケースで学びました」と振り返る。
依頼する側としても、選択肢を多く持ち、柔軟に対応してもらえる存在は大変心強かったのではないか。S様からは「一緒につくれてよかった」という感想をいただいたという平井さん。「毎回打ち合わせにもいらしていた小学生のお嬢様が、『建築家になりたい』とおっしゃってくださったのが嬉しくて」とこの日一番の笑顔を見せてくれた。
基本データ
| 作品名 | 等々力の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都世田谷区等々力 |
| 敷地面積 | 108㎡ |
| 延床面積 | 190㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 4000万円台 |
設計者情報
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