
コンパクトながら広々した空間を実現
静かな環境と視線の伸びを両立する「間」

武本 博徳
たけもと ひろのり
one design
静岡県 富士市
designに正解はありません。 それでも、one designは、 日々変わる時代や環境、取り巻く状況に応じて、 ひとりひとりに最適な答えを探していきます。 ひとつひとつ、妥協なく、誠実に、丁寧に。 広がる未来を想像しながら、空間を組み立てます。 新たな暮らしの鍵を開けるまで、ともに楽しむこと。 それを何より大切にしています。
ノイズを排除しつつ、様子は伺える距離感
2つの居室に挟んだ絶妙な「間」
設計を依頼したのは株式会社one designの武本博徳さん。他社とも検討しながら、KLASICにも掲載の作品「趣味と暮らす」を見学するなどしたうえで決めたという。
ご夫妻と猫で暮らす家として武本さんが提案したのは、玄関土間とそれに続くホールを中央に置き、右にキッチン・ダイニングを、左にリビングを配置した平屋だ。というのも、奥さまはテレビ鑑賞、ご主人は読書と、それぞれの趣味が楽しめる環境が少々異なっていた。ホールを間に挟むことで、お互いが気兼ねなく趣味に没頭できる空間をつくりたいという意図があった。
ただ、離れたことで疎外感が生まれてしまうのはよくない。そこで、間を挟んでもお互いの気配は感じられる距離感は確保した。ふと目を向ければ姿が見え、様子も分かるおかげで、ひとつの家の中にいるという感覚は常に得られる。つまり武本さんは、ご夫妻がそれぞれの趣味に集中してもらえるよう不要なノイズのみを排除したのだ。
他にもたくさんの趣味をお持ちのご夫妻のために、飾り棚など暮らしの中に趣味を取り入れられる仕掛けが数多く施されている。この土地を購入する大きな理由となった家庭菜園や庭仕事についても、庭に近い場所に勝手口を計画しキッチンへの動線を整えた。
また、猫ちゃんへの配慮も忘れていない。家の中で遊べるよう高い位置にちょっと登れるような場所をつくったり、窓台の奥行を深めにしたりしたという。さらに、土間床の素材に滑りにくい樹脂モルタルを採用。掃除もしやすく、ご夫妻が「ペットがいるお施主さまに必ずおすすめしたいほど」と喜んでくださったポイントのひとつなのだとか。
趣味や暮らしを大切にするお施主さま夫妻の意図を深くまで読み取り、想像以上の環境を用意した武本さん。家で過ごすことが何よりの楽しみになる。それがこの「緑と平屋」だ。
視線が長く伸びる空間づくりと、ミニマルな
家事動線のメリハリで暮らしやすさが向上
特徴的なのは、廊下を省き居室の一部を通路のように使用できる点だ。キッチンから水回りへは流れるような動線で自然に移動できるうえ、脱衣室に洗濯機があるおかげで洗濯が手間なくできる。さらにウォークインクローゼットが広々としたリビングに隣接しているため洗濯物を持った移動も楽々と、単にコンパクトというだけではない使いやすさが実現した。
リビングには、大きな窓の外に屋根付きの庭のようなファジーに使える空間がつながり、そこに洗濯物を干すこともあるという。その場合も、リビングを通路として使えるおかげで布団など大物の扱いも難なくできる。
また、廊下を省いたおかげで開放的な伸びやかな印象も得られるようになった。たとえばダイニングからはホールを抜けリビングに、さらにリビングの窓から外部の緑にまで視線が伸びる。ダイニングにも大きな開口があり、リビングからも同じような意識の広がりを感じることができるのが嬉しい。
屋根の形状が生かされ、天井が高いことも心地よさを高めている。「リビングは天井の梁と床のフローリングの方向を合わせ、さらに奥行きが感じられるようにしました」と武本さん。キッチンの天井は低めに、ダイニングエリアはリビング同様の勾配天井に、など天井を細かく切り替えその場その場にふさわしい雰囲気をつくりあげた。
玄関土間とホールの間をガラス戸で仕切ったことにも理由がある。猫ちゃん対策でどうしても仕切ることが必要だったが、パネルにすると玄関土間、ホールともに狭く感じられてしまう。ガラスであれば、仕切りながらも視線は抜ける。徹底的に居心地を追求した結果だ。
コンパクトにまとめることで更なる広さを確保。使いやすさとゆとりが両立した唯一無二の家ができた。
ワンストップで請け負うからこそ可能になる
高レベルな「デザイン」と「機能性」の両立
デザインと機能性を妥協なく両立できる理由を武本さんに聞くと「設計から施工までワンストップで承っているからでしょうか」との答え。コストから機能面、竣工後のアフターケアまで、全てに責任を持つからこそできることがある。
例えばこの家は費用対効果も考慮しコストが抑えられる長方形を基本としたが、同時に空間が単調にならない工夫も取り入れている。ホールからロフトに進むことができるのだ。平屋に上下の関係を加えたことで、家がまた豊かになった。さらに、そのロフトからの眺めが素晴らしい。横長の大きな開口に広がる美しい富士山の稜線。まるで絵葉書のような風景も、高い位置の窓だからこそ得られる。デザインに裏付けされた理由が、ひとつの角度からだけでないことも、武本さんのプランニングの魅力だろう。
壁面は石膏の左官仕上げに。実は仕上げ材ではないのだというが、色も室内の雰囲気にぴたりと合っており洗練された空間づくりの重要な一要素を担っている。低コストなだけでなく調湿、脱臭機能にも優れ一石二鳥だ。
さらに、地元ならではの視点も加わる。海に近い土地のため、塩害を考慮し屋根は瓦を提案。ただし、お施主さまの要望に合わせてスタイリッシュな雰囲気の瓦を選んだという。もちろん、長期優良住宅の資格もクリア。絶対的な安心感とともに暮らせるのはありがたい。
「家づくりにまつわることをひとつに繋げて考えられるので」と武本さんは語る。お施主さまの要望をデザイン、機能性、コスト、施工の方法などそれぞれの角度から捉え、最良の選択を重ねて完成した家。それが「緑と平屋」だ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 緑と平屋 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県富士市 |
| 敷地面積 | 692.91㎡ |
| 延床面積 | 92.74㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | I邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

狭小でも明るくほっこり 1階と2階が緩やかにつながる家
深い庇に切り取られた豊かな緑が美しい広々バルコニー。木のぬくもりを感じる開放感抜群のリビング。狭小地であることを感じさせない、居心地の良い住宅を設計したのは、ESPAD環境建築研究所の藤江保高さん。狭小・ローコストという難題をクリアし、家族4人が快適に暮らせる住まいの秘密に迫る。

上質空間に心地よい時が流れる 猫と暮らす安らぎの平屋
2階建てや3階建てが多くを占める日本の戸建て住宅において、平屋を選ぶ人は少数派。しかし、上下階の移動がなく、生活が1階だけで済む利便性と、のびやかな暮らしが送れることが人気でもある。部屋数や広さよりも、上質な空間で自分たちにあった空間で済みたいと思っていたNさんが、理想の家の実現を託したのは、土地を読み、施主の想いに的確に応える建築家、高瀬さんでした。

多趣味を受けとめるナチュラル空間!安心快適も実現した秘密とは
ビルトインガレージ、緑豊かなウッドテラス、パン台のある広々キッチン……。多趣味なNさん夫妻のために建築家の長谷山泰三さんがつくったのは、無垢材を贅沢に使った明るく心地よい住まい。空間の魅力だけでなく、安心・快適な性能も併せ持つ心強い家だ。

光を活かす設計と自由な素材使いで 遊び心と暮らしやすさを両立
建築家の吉田祐介さんの自邸兼事務所は、モデルルームの役割も担っており、設計はもちろん素材使いのヒントが満載。光や風をうまく取り込みながら、吉田さん独自のセンスで個性豊かな素材をまとめ、快適性とデザイン性を見事に両立させた空間の魅力を紹介しよう。

庭の木々と木製家具に癒される…。 都市の中で実現した、憩いの住まい
「デザイン性だけでなく、機能性にもこだわった住まいをつくりたい」。そんなSさんご夫婦の夢を請け負ったのが、いのはな設計の鈴木宏昌さんである。緑を望む庭に、インテリア性の高い造り付け家具、高い断熱性。Sさんの希望をみごとに叶えた鈴木さんの家づくり。気になるその中身をのぞいてみよう。

“スープの冷めない”程よい距離感。 二世帯住宅における、ひとつの最適解。
県道から坂道を上った小高い住宅地に佇む、落ち着いた雰囲気のL字型の住宅。ここは、みのわ建築設計工房の箕輪裕一郎さんが設計した自邸「大泉寺の家」だ。「二世帯の距離感」をテーマに、自身が生まれ育った家を建て替え二世帯住宅としてプランニング。さて、箕輪さんが導き出したその「距離感」とは。そして、家を設計する際にいつも心がけていることとは──。

コンパクト、不整形、高低差ある敷地でも スキップフロアで広々明るい空間を実現
家を新築するにあたり、オープンな暮らしがしたいと考えていたお施主さま。ただ、敷地は住宅が密集するエリアのコンパクトな敷地で、さらにかなりの高低差もあった。難しい条件でも、空間の区切り方や視線の抜け、また構成の妙で広々した空間と快適な暮らしを実現したのがこの「光射家」だ。

広々とゆとりあるLDKを実現した、天井とルーフテラスの工夫とは?
視線を遮りながら明るく開放的で、テラスも備えた天井の高いLDKがほしい――。細長い旗竿地で、道路斜線による高さ制限もあるなか、建築家の川本達也さんは施主の想いを叶えた理想のLDKを作り上げました。軒梁を格子状にした天井、内から外へ連続するテラスなど、完成したLDKに隠された多彩な工夫に注目です。

クローゼットを楽器の練習場所に 対話が育む施主づくり家づくり
よい家づくりには「施主力」も必要だと語るのは、人の力設計室の小林さんと片岡さん。彼らは徹底的に人と寄り添った住宅をつくり続けている。普通の家で思いっきりトロンボーンを吹きたいという、施主の願いを叶えた家づくりに迫る。








