
半地下空間とスキップフロアで叶えた
コンパクトながら家族5人の居場所がある家
床面積に算出されない半地下を取り入れ、
家族5人が伸びやかに暮らせる広さを確保
そのような状況の中で「できるだけスペースを増やし、圧迫感や狭さを感じない家にしてほしい」と依頼を受けたのはアトリエスピノザの井東力さん、市原香代子さんの2人。お施主さまはこれまで手掛けた狭小住宅の作例などをHPでご覧になり、問い合わせくださったのだという。
この土地では、容積率いっぱいに計画しても面積86㎡弱の家しか建たない。そこで2人が提案したのは、容積に算入されない半地下をつくることだった。そのおかげで、延べ床面積は103㎡以上を実現。さらに、「できる限り大きく、また広く感じる家をつくることが第一でした」と井東さんが話すように、建ぺい率や日影制限、斜線制限などもギリギリのところで収めて大きなフォルムをデザインした。
さらに、家の内部は半地下から始まるスキップフロアを採用した。床レベルを調整しつつ、LDKと主寝室、2つの子ども室などの居室を、それぞれに相応しいボリュームを確保して計画したという。
勾配屋根を生かした天井と床レベルの変化で
一人ひとりの居場所をつくる
ゆとりあるシューズクロークを備えた広い玄関に入ると、正面に半地下、また上階へと続く階段が並んでいる。半地下にあるのは、息子さん2人の子ども室だ。2階に上がる間に娘さんの子ども室があり、2階は浴室などの水回りと主寝室を計画した。
3階のワンルーム空間に設けたのは、LDKとスタディコーナーだ。法的な制限を交わした屋根を生かした天井は、勾配角度や高低差もさまざま。一方、梯子でアクセスするルーフバルコニーまでの高い吹き抜けもある。訪れた人は空間のバリエーションの豊かさや想像以上の大きさに、まず驚いてしまうことだろう。
階段を上がりきったすぐ正面にあるスタディコーナーを挟み、左にリビング、右にキッチン、ダイニングがある。スキップフロアが半地下からスタートしているおかげで床のレベルを下げることができたリビングは、一段と天井が高くて開放的だ。トップライトからは空も見え、ゆったりくつろげる。
ルーフバルコニーの下にあたるキッチンは天井が低く、3階の中で一番コンパクトなスペース。隣接するダイニングは勾配屋根を生かしたエリアで、一旦上がった天井が壁に向かってぐっと下がる。一番天井が低く、デッドスペースとなりがちな壁際にはカウンター収納を設け、家の使い勝手を向上させた。また、こちらにもトップライトが計画されており、圧迫感なく過ごせる。ダイニングからはバルコニーに出ることもでき、当初は手狭な家しか建たないと考えられていたことが不思議なくらいだ。
「東京タワーを眺めたい」という希望は、ルーフバルコニーによって叶えた。外壁は主にシルバーのガルバリウム鋼板を採用しているが、そのルーフテラスを囲むのは白い左官仕上げの壁。住まう人が外に出たときに目にする壁であり、手に触れる部分でもあるため「親しみやすさや触り心地のよさのことも考えました」と2人は語る。また、東京タワーに向かって壁を四角く切り取ったことにも理由があるという。「ピクチャーウインドウとすることで景色を切り取り、東京タワーをより印象的に見せることができました」と市原さん。
家族が集う場である3階。ワンルーム空間のはずなのに床レベルや天井高の変化、また耐力壁による緩やかな区切りのおかげで場所ごとの印象が異なり、それぞれ相応しい居心地が得られる。許容面積いっぱいに部屋を詰め込むだけではなく、ひとつひとつの場所ごとに、どうしたらよい環境をもたらすことができるのか。そこにこだわり、確かな経験とともにプランニングした結果だといえる。
移動も楽しくなるスキップフロア。視線の
抜けは圧迫感を軽減し、居心地よさを高める
家の中央に位置する階段室は、1階から2階、2階から3階部分それぞれに窓がある。とくに2階と3階の間に設けられた開口は大きく、移動しながら外が眺められるうえ豊かな日射も家の中に入れられるようになった。明るい光は2、3階に2か所ずつ、重ねて設けられたガラス床を貫き1階まで届けているため、家はどこも明るい。また、リビングやダイニングのトップライトに加え、ルーフバルコニーに続くガラス扉など、空が見える場所が多いのもこの「三田の家」の特徴といえるだろう。
外部に向けてだけでなく、室内においても視線が抜ける工夫がある。階段室の壁面を一部ガラス窓としたのだ。例えばリビングはこの小さな窓があるおかげで、階段室を通して外まで見渡せるうえ、階段を家族が移動している気配も感じられる。
さらに角地であることを生かし、1階の玄関や、2階の主寝室、3階のバルコニーからは向かいにある緑多い借景を存分に楽しめるように計画した。また東京タワーが望めるルーフバルコニーは、道路からは人がいることが見えにくいように壁の高さを設定。気軽に外に出られるようにという気遣いが感じられる。
「家の中の移動が楽しいです」とお施主さま。家族一人ひとりの居場所ができたことも、大変喜ばれているとのこと。アトリエスピノザの2人は「眺望を気ままに楽しんだり、お子様たちが元気に家の中を駆け回ったり、一戸建てならではの暮らしの楽しさを感じていらっしゃるようで嬉しい」と話す。家を見ていると、打ち合わせのときも賑やかで楽しそうだったというお施主さま家族の印象を、いかに2人が大切にしていたかがわかる。だからこそ、この家でどう暮らすかだけでなく、お子様たちの成長とともに暮らしがどう変化するかも楽しみになる家ができたのだろう。
撮影者:中村絵
基本データ
| 作品名 | 三田の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都港区 |
| 敷地面積 | 53.56㎡ |
| 延床面積 | 103.61㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供3人 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

洗練の大空間と、家族のためのくつろぎ空間 創造力を刺激するアトリエ兼住居
札幌市内にあるこちらの建物は、アートディレクターの施主さまのアトリエ兼住居。自分でアレンジするのが楽しい「倉庫のような空間」を実現した仕事場や、ホッとくつろげる居心地抜群の住居について、設計を担当した高木由美子さんに話を聞いた。

四季の太陽の動きもバッチリ計算!徹底的に快適な家づくりとは?
転勤で東京暮らしのNさんは、地元長野へ戻るのを機に、自宅の建て替えを決めました。長野の気候風土に合った「明るく開放的な住まいづくり」をテーマに建築家選びを開始しましたが、依頼することにしたのは東京在住の建築家、冨田享祐さん。「自然の力を最大限に生かしながら快適な暮らしの場をつくるという考え方に共感できた」というのが、その理由です。

「土間」がつなぐ二世帯住宅!矛盾しそうな親子の本音にも解とは
二世帯の同居をスタートさせるにあたり、実家をリフォームしようと考えていたAさん一家とAさんのご両親。親世帯と子世帯、両者の思いに耳を傾けた建築家が出した答えは、まったく個性の異なる2軒の家が並列する、すっきりスマートな家の「新築」だった。

間取り改修の落とし穴?! 広々、洗練させる本当のリノベとは
新築マンションを購入するも、リビング・ダイニングの狭さが不満だったIさん夫妻。壁を撤去して空間を広げる計画を進めていたが、途中で相談を受けた建築家の伊藤 悠さんは「それでは期待通りの結果を得られない」と、別の改修を提案する。伊藤さんはどんなことに気づき、どのような空間をつくったのだろうか?

採光に難ありの敷地でかなえた、 明るく開放的な「奥行のある家」
3方を隣家に囲まれた細長い敷地。これだけ聞くと十分な光が入らない家になりそうだが、建築家の吉田祐介さんは驚くほど明るく開放的な住空間を設計。施主である若いご夫妻の先々の変化も見据えた、永く愛せる快適な住まいに仕上がっている。

狭小・北向きでも明るく快適! 家族が集まる居心地抜群のLDK
首都圏の狭小住宅でよく見かけるのが「3階建て・2階がLDK」というパターン。だが、東京を中心に数多くの狭小住宅を手がける(株)ホープスの清野廣道さんは、敷地14坪のU邸のLDKを3階・北向きに配置した。一見するとセオリーに反するようなこの間取りには、実はいいことが盛りだくさん。その魅力とは?

高低差のある住宅密集地に光と風を3層の立体設計が叶えた豊かな空間
一本のインスタDMから始まった家づくり。建築家・服部創史さんは徹底した対話から理想を捉え、土地購入のタイトな期限に間に合うよう、わずか2日で希望を収めたプランを提示した。世田谷の高低差を活かした3層住宅は、半地下がありながら、どこにいても光と風が心地よく行き渡る。一見無駄に見える「ごろんスペース」が日常を豊かに彩り、やさしく街に馴染む邸宅。施主に徹底して寄り添う、二人三脚の設計の軌跡をたどる。

コンパクトな中に、驚きの大収納も欲しい部屋も、全部ある!
川沿いに建つ、ランダムにあけられた窓が印象的なI邸は、間口4.5m、奥行き12m、約10坪の狭小住宅。しかしそのコンパクトな外観からは想像できないほど、居住空間はのびやか。スキップフロアのLDKは大容量の床下収納も備えるなど、随所にワザありの住まいなのです。

大きな開口がなくても閉塞感なく暮らす。 空を印象的に切り取り、光を入れるスリット
住宅街の中の、三方を隣家に囲まれたコンパクトな家だ。夫婦2人で暮らすため、趣味や生活を楽しめる家にしたいとお考えだったお施主さま。視線を遮りながら趣味のスペースを確保し、また心地よく暮らせるよう取り入れたのが、光を貫通させる複数のスリットとスキップフロアだ。










