
正面は「田」の字形のコンクリート外壁。
防火地域ながらも、外壁の安心に囲まれて家族の将来を見守り続ける木造の家

浅井 裕雄
あさい ひろお
裕建築計画
愛知県 名古屋市千種区
裕建築計画は名古屋を中心に愛知、岐阜、長野、三重で活動している一級建築士事務所です。 住宅から福祉施設、工場など、幅広い建築の設計・監理をしています。
難題の答えは「コンクリートのマスの中に、木造建築を入れる」という発想
そのため、当初の計画地設定から苦慮。K様の敷地は、借地として飲食店舗に貸している部分もあるため、建物が隣接している。そんな敷地内の建物との関係なども含めて、考えを整理していったため、プランづくりには1年以上かかったという。
「K様の土地に建つ建物の現在のレイアウト、10~20年後にはどうなっているか、30年後は?50年後は?など、将来的にどう変化する可能性があるかを含め、新しく建てる家を長く住み継いでいけるよう、配置計画についても複数案を提示して、一緒に検討していきました」。
敷地配置計画が固まると、次は、どんな建物にするかの設計プランだ。まず、土地が防火地域であるため、建物すべてを耐火構造にしないといけないかどうかを検討。その際、延べ床面積100㎡以下であれば、外壁耐火にすることで内側の建物の耐火仕様は不要になると気づいた。外壁耐火(=コンクリートの壁にすること)のメリットは、外壁のコンクリートが地震力や耐風の力をすべて担ってくれるため、内側は木造であっても柱や耐力壁、筋交いなどの外力を受ける壁がいらなくなること。さらに、内側を木造にすることで、長い目で見たときにリノベーションもしやすくなる。コンクリート外壁を活かしながら、木造部分を作り変えることで、将来、開けてくるかもしれない土地を有効に活用できるのだ。「この土地を愛していらっしゃるK様が、次世代にわたってまたずっと住み継がれていく家だと考えたので、30年~50年後、どうなっているかも含めて提案したいと考えました。外壁耐火は、長くずっと使っていけるので」と浅井さん。
そうして、K様邸の設計に対して浅井さんが導き出した答えは、コンクリートのマスを耐火外壁として使用し、内側を木造建物にする設計プランだった。
光、風、使い勝手、居心地…。将来にわたって、ずっと暮らしやすい家を
外壁の内側、木造建物部分との間にスペースを設けることも重要視。窓からすぐ外が隣地ではなく、中間領域の空間を設けることで、緩衝体となって住む人に安心感を与えてくれるからだ。窓を開けると、すぐそこに隣家があるのは圧迫感も感じて、気持ちのいいものではない。
また、コンクリート外壁の穴の部分のサイズは、一般的に使われる窓&サッシのサイズに合わせているため、将来的にリノベーションする際、ここを窓として使うこともできる。将来を見据えた設計アイデアのもう一つが、木造建物の外壁材にレッドシダーを採用したこと。コンクリート外壁と合わせたときに、木質系の表情がより豊かに見え、経年によって色褪せてきたときには、コンクリートのカチッとした硬さと木目の生きたレッドシダー材との対比が、より浮き立ってくる。
K様からは、1階に和室が欲しい、寝室は畳敷きにしたい、設備面ではオール電化で電気式床暖房の採用を要望され、その他についてはほぼおまかせ状態だった。そんな中で浅井さんが提案したプランには、いくつかのポイントがある。
4畳半ほどのスペースがある2階のホールは、ゲストが訪問した際には大勢集まれる空間を生み出せるよう、開閉しやすいカーテンの仕切りだけに。カーテンを閉めれば個室となり、来客に泊まってもらえるゲストルームとして使用できる。またキッチンは、浅井さんがよくタッグを組んでいる瀬戸市の家具工房「スニッカ」に依頼。メンテナンスがしやすいプロペラファンがご希望だったので、フードをつけると暗くなるため棚板で排熱を整流した。また、キッチンを利用する奥様に合わせた高さにしたりするなど、オリジナルで造作。浅井さんは、アルミサッシ以外の既製品は使わない。品質&コストのみを優先する既製品だと、作り手の顔が見えてこないからだという。「なるべく、誰が作ったということを伝えられるようなものにしたいと思っています。素材感がより出ている方が、作り手にとっても、住む人にとっても愛着がもてると思うので」。
また、商業地域に住むという立地の利便も生かしている。「隣がスーパーなので、パントリーが不要。毎日の買い物も楽なので、食材や調味料など不足しているものがあれば、すぐに買い足せるからです」と浅井さん。本当に必要なものにはとことんこだわり、必ずしも必要でないものには予算をかけずにコストを抑えている。「インテリアなどは普遍的なデザインに。カラーコーディネートの違う3案程は提案しますが、細かい設えはお施主様の趣味・嗜好もありますし、住み始めて何年か経って変えやすいようにと思っています」。
浅井さんが設計するうえで、常に一番、大切にしているのは、将来を見据えた暮らしのデザイン。「それまでの暮らしの中で、体に染みついている生活の仕方というのが誰にでもあるはずです。今までの暮らし方を踏襲しながら、新しい家でも不自由なく住めることが一番、大事だと考えています」。
敷地条件の難題をクリアし、何十年も住み継げる家のカタチ、そして光、風、動線、そこの住むご家族のライフスタイルに適した、暮らしやすさを追求したプラン。それらをすべて叶えたK様邸は、個性的な外観スタイルの存在感以上に、大切なご家族の暮らしを将来にわたって見守っていく、「ふるさと」として住み継がれていくに違いない。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 愛知県名古屋市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 100.06㎡ |
| 延床面積 | 99.94㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 施主 | K邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

高断熱、高耐震、快適動線、豊富な収納… 「快適な住み心地」を形にした理想の住まい
デザインやアイデアを一方的に提案するのではなく、お施主様と一緒に考え、共に創り上げていく住まいづくりが、「アトリエ住之舎」角野さんの設計スタイル。ご家族の快適な暮らしを大前提に、要望以上の提案をプラスすることで、価値ある住まいを提供。そこには、家族の暮らしの未来設計も含まれている。

まるで十徳ナイフ あえて「狭小住宅」という選択
家族で暮らす「狭小住宅」というと、予算や土地といった制約から「やむを得ない選択だった」ということもあるだろう。そんななか、妥協ではなく「この狭小住宅に住みたい!」と思う家族が絶えない建築家がいる。新潟県で狭小住宅に特化した家づくりを行っている、ネイティブディメンションズ一級建築士事務所の鈴木さんだ。多くの人々から選ばれる狭小住宅とは、どんなものなのだろう。

それぞれの生活を大切に ほどよい距離感でつながる二世帯住宅
長い海外生活から帰国し、実家を高齢のお母様との2世帯住宅に建て替える計画をした施主のKさん。建築への造詣も深いKさんご夫妻が、和のテイストを持ちながら、洋な暮らしをしたいとの思いを持ち、その実現を依頼したのは、大ベテランの建築家、ESPAD環境建築研究所の藤江通昌さん。自然・都市・人間をテーマに、ジャンルを問わず環境にマッチした大小様々な建物を手掛けてきた、藤江さんの仕事の真髄に迫る。

のびやかな空間で豊かに暮らす。 季節を感じ、夫婦がくつろげる住まい
「部屋数はあるけれど住みにくい」と、3階建ての建売住宅を建て替えたご夫妻の新たな家は、3つのテラスとロフトのある2階建て。空間ののびやかさ、季節を感じる心地よさ、使い勝手のよさまでパーフェクトな住み心地をかなえた新居には、設計を担当した齋藤文子さんの豊かな感性が活きている。

何かが違う…。何が違う?木造に見えない、上質モダンな木造住宅
「木造に見えない木造住宅」という施主のリクエストに応え、まるでRC造のようにモダンな住宅をつくった建築家の八田政佳さん。どんな希望も全力でかなえようとする設計姿勢、技術・デザインの引き出しの多さで人気を博す八田さんの家づくりの魅力とは?

目指すのは快適な「シュミグラシ」!現代の長屋が愛される理由
都心からおよそ40分。東武東京スカイツリーライン「蒲生(がもう)」駅から徒歩5分ほどの、約2,900㎡の土地に誕生したのは、「蒲生シュミグラシ WA nest(ワ・ネスト)」と名付けられた斬新な賃貸集合住宅です。趣味や仕事と暮らしが一体化した20の住戸に、地域に開かれたコミュニティスペースが併設された、「現代の長屋」。その魅力を、現地で探りました。

広大なワンルームに屋上庭園! 光と緑あふれるアーティストの家
アパレル企業の社長であり多彩な制作活動も行う施主さまの自宅は、自社の配送センター兼工場ビルの最上階。ビル全体の設計を手がけた勝田無一さんは「自宅はワンルームがいい」との希望を受け、スケール感と快適さを両立した独創的な住まいを提案。空、光、緑と共に暮らす居心地抜群の空間とは?

オーディオルームで趣味に浸る、集う場所と趣味の場所の共存術!
施主であるMさんが望んだのは、家族の時間を共有しながらも、それぞれも趣味に没頭できる場所がある住まい。完成したのは、家族が集まれるワンルームのようにオープンなLDKと、趣味の音楽や映画を楽しむことができる個室を備えた家だった。

2人だけの日常も大人数が集まるひとときも 夫婦の願いを叶えた数寄屋造りの邸宅
子育ても終えた夫婦にとっての理想のすまいとはどんな家だろう。夫婦2人が寄り添って暮らす程度のコンパクトなものが良いのだろうか。それとも、子や孫、親戚、友人など多くの人が集える広い家だろうか。この相反する要素を1つの家に見事に詰め込み、夫婦の理想の暮らしを実現させたのは、やまぐち建築設計室の山口さん。プライベートとパブリックを両立させたこの家の秘密に迫る。
