
10坪のマンション、可動家具で大変身。
秘密は「四次元設計術」
「面積」×「高さ」×「時間」の設計で、空間はもっと豊かになる
「当初は純粋な住まいとして使っていましたが、事務所を兼ねることになり、2009年にリノベーションを行いました。その際、妻から『リビングを広く取る』『収納を増やす』『部屋数を増やす』という、まったく矛盾した要望を突き付けられました(笑)」
実際の設計業務でも、施主様から一見矛盾した要望の出ることは多いという。
「特にリノベーションの場合、箱の大きさは決まっているのに実現したいことは山ほどあるのが普通です。そんなとき、私は部屋を二次元でなく多次元で考えるようにしています」。
「わずか36㎡」と見ると、できることは限られる。しかし “高さ”を利用することで、可能性は大きく広がるという。「まず、約10畳のリビングと約6畳の居室を一体化させ、大きなワンルームにしました。その上で、居室だった部分を40cmかさ上げし、板の間の小上がりにしています」。
古いマンションの天井高は、元々約215cmしかない。その床を40cm上げると、小上がり部分の天井高は175cm。大人が立つには低すぎるから、常識的にはこんな設計はしない。しかし、“座って過ごす空間”と決めてしまえば、問題なく成立するのである。
「実際パーティなどで人を呼ぶと、みんな小上がりに座って壁にもたれたり寝転んだりしています。気持ちの良い空間ができました。三次元でとらえると、部屋の表情って大きく変わるんですよ」と久保さんは満足げである。
さらに小上がりの下部は、深い奥行きを持つ引き出し型の収納にした。
「小上がりで寝ることもあるので、寝具もここにしまっています。仕事の参考にする大型の写真集なども大量に収納できるので、室内がすっきりして、広く使えるようになりました。妻も喜んでいます」。
久保さんの工夫は、三次元=高さの活用にとどまらない。四次元=時間の活用という考え方も取り入れているのが、このリノベーションの大きな特徴だ。
「妻が『部屋数を増やしてほしい』と望んだ意味を掘り下げると、『ひとりで集中して作業ができる書斎のような空間がほしい』ということだとわかりました。しかし、妻は毎日勤めに出ていますので、書斎を作ってしまうと日中は無駄な空間、デッドスペースになってしまいます。ならば、『使いたいときだけ出現する書斎』を作ればいいと考えたのです」。
時間によって変化する住空間。久保さんらしい、柔軟な発想である。
そこで利用したのが、可動型の家具だ。
「まず小上がりの上を前後に移動する本棚を設置し、必要に応じてリビングと小上がりの空間をつなげたり分けたりできるようにしました。さらに、普段は壁のようになっているボックス型の仕切りを引き出してテーブルをはめ込むと、小上がりの片隅にひと坪ほどの書斎が現れます」。
文章での説明だとわかりにくいが、大人ひとりと補助役ひとりで家具を移動させると、ものの1分でそれまで影も形もなかった小部屋が登場する。ちょっとした手品のようだ。
「リノベーションのショールームとしてもここを活用していますが、家具を動かすと男性陣には必ず大受けします(笑)。秘密基地のような感じなのでしょうね」。
久保さん夫妻は、1日の時間帯によってだけでなく、仕事のある日と休日、さらには季節によっても家具のレイアウトを変えるそうだ。
「夏は風が通り抜けるように、冬は細かく区切って熱が逃げないようにします。個人の好みもありますが、私は固定の壁を極力なくして、住む人が状況に合わせて変えられるような空間作りを志向しています」。
これらの家具は、久保さんが図面を引いて大工さんに作ってもらったそうだ。
「間仕切りには、軽さ重視でアルミの複合板を使いました。リビングにもテレビなどを隠せる仕切りを設置していますが、薄い中空ポリカを使っています。自分の家なので、実験の意味も含めて素材を選びましたが、施主様のご要望に応じて色々な素材やデザインを提供できます」。
たとえば可動本棚はキャスターで動くようにしているが、天井もしくは床にレールを設置すれば、女性ひとりでも簡単に移動できるようになるし、重く高級感のある素材を使うこともできる。「空間と家具の関係、コストとテイストのバランスは、常に考えます。家具職人兼デザイナーのパートナーもいますので、クオリティの高い可動家具も、もちろん実現可能です」。
家具も一体で設計すると、リノベーションはクリエイティブになる
「空間に合わせた造作家具を作るのと、ありものの家具を置くのでは、部屋の印象も空間のポテンシャルもまったく違ってきます。特に限られたスペースを生まれ変わらせるリノベーションでは、家具の果たす役割は重要だと感じています」。
一般的には「面倒で手間がかかる」と言われるような仕事を、逆に久保さんは「ぜひやりたい」と言う。
「クリエイティブな仕事が好きなのです。家に求めるものは十人十色ですが、それを具体的に言葉にできない施主様も少なくありません。丁寧にコミュニケーションをとって意をくみ取り、形にしていく作業が、私は好きだし得意です。手間はかかるけれど、クライアントと共にお互いに納得のいくいえづくりができた時はとても充実感や達成感があります。逆に、建てたい家が明確に決まっていて、建築家に特別な工夫を求めない方は、私に依頼する意味があまりないと思います」。
久保さんの設計事務所では、『家づくりワークショップ』を行っている。
「参加者自身に家づくりのコンセプトから考えてもらい、家の模型を作ってもらいます。これをやると、自分が家のどこにこだわっているかがわかるのです。施主様にもできるだけ参加してもらい、そこから施主様の“偏愛箇所”を読み取って、設計に活かします。施主様が潜在的に希求している家を形にするのが、私の使命だと思っています」。
何かしらの“偏愛箇所”を持った施主様と、工夫を凝らしながら手作業でそれを形にしていくような設計。それが、久保さんの持ち味なのである。
「私と同世代、30‐40歳前後のクライアントが多いのです、予算が厳しいケースも少なくありません。リノベーションでは、空間も限られます。しかし、どんな制限があっても、知恵を絞れば何らかの解決方法が生み出せます」。そのクリエイティブな作業が、久保さんにとっての建築・設計なのだ。
基本データ
| 所在地 | 東京都杉並区 |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦 |
| 施主 | K邸 |
設計者情報
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