
コンパクトでも、居心地はこんなにのびやか
快適動線もうれしい森林の別荘

齋藤 文子
さいとう ふみこ
3110ARCHITECTS一級建築士事務所
東京都 板橋区
私たち3110ARCHITECTSは、翻訳家であり、デザイナーであり、指揮者であり、技術者の集団であることを自覚し、クライアントの夢や希望に向きあいます。そして建築物はクライアントの財産であるとともに、風景の一部だと考えます。上質な建築を創り街並みに美しさを添えることが、私たち3110ARCHITECTSの役割であり、社会貢献につながると信じています。
息子さん一家の住まいの隣に
ご両親のための小さな別荘をつくる
ふだん暮らしている東京・世田谷の自邸は建築家が手がけており、Aさま夫妻は、建築家の注文住宅ならではの住み心地の良い間取りや、自然素材の風合いに慣れ親しんでいた。そのため、「別荘も建築家の設計で建てたい」と、洗練されたナチュラルな作風にファンの多い3110ARCHITECTS一級建築士事務所の齋藤文子さんに設計を依頼した。
完成した『北杜の別荘』は、「シンプル」「コンパクト」「自然素材」というAさまの要望を全てかなえた住宅だ。けれど、要望に対してプラスアルファの魅力を添えて提案してくれるのが、齋藤さんとの家づくりの楽しいところ。この別荘でも要望に対するアンサーが秀逸で、予算内におさめるための配慮も厚い。
では早速、それぞれの要望に対して齋藤さんがどんなアンサーを出したのか、詳しくご紹介していこう。
きちんとデザインされた「シンプル」が
快適動線と居心地の良さを生む
まず、「シンプルな間取り」。この別荘は木造2階建てだが内部のほとんどは吹抜け空間で、2階にあるのは寝室のみ。吹抜けによって1階と2階のつながりを感じられる、大きなワンルームのような造りだ。だが、シンプルな大空間のようでいて、動線や使い勝手はものすごく考え抜かれている。その一例が、洗面室とキッチンの間に設けられたウォークスルークローゼット(以下、WTC)を介し、1階全体をぐるりとまわれる回遊動線。キッチン、洗面などの水まわり、リビング・ダイニング、さらにはお孫さんが遊びに来たときのための子ども室まで、各空間に無駄なく・効率よくアクセスできる。
また、柔軟で合理的なアイデアに長けた齋藤さんらしさを感じるポイントが、WTCをパントリーとしても洗面収納としても使えるようにしていることだ。
「洗面収納やパントリーは、生活の利便性という点でぜひ欲しいスペースです。けれど、両方つくるとコストも床面積も増え、コンパクトというご要望や、ご希望のご予算に応えられなくなってしまいます。だったら、パントリーにも洗面収納にもなる曖昧な大容量クローゼットをつくり、洗面室からもキッチンからも入れるようにすれば、ライフスタイルに合わせて自由に使っていただけるだろうと考えました」と齋藤さん。単純なようでいて意外に思いつかない、こういうアイデアは本当にうれしい。
次に、「シンプルなデザイン」。これは写真をご覧いただけば一目瞭然だが、特筆すべきはなんとも言葉にしがたい理屈抜きの気持ち良さ。その理由はおそらく、水平ラインの統一感だ。齋藤さんは1階の南側にある2つの大きな掃き出し窓と、リビングと子ども室を仕切る障子の高さを揃えて設計。ダイニング~リビング~子ども室にかけて1本の水平ラインがスーッとつながり、3つの空間に統一感をもたらしている。こんな風に、押しつけがましいところがいっさいなく、それでいて、きちんとデザインされた美しさのある空間は本能的にくつろげて飽きがこない。これこそが、齋藤さんが生み出す真に心地よい「シンプル」なのだ。
約53㎡とは思えない開放感。
コストを抑えつつ、本物志向の心地よさを
要望に応えた『北杜の別荘』の延床面積は、約53㎡。数字だけ見れば広いとはいえないが、齋藤さんは「広くないのに、なぜか広く感じる心地よさ」を演出するのがとてもうまい。そしてこの別荘でも、そのテクニックが効果的に盛り込まれている。
例えば、玄関からリビングへ行くときの「空間の感じ方」。玄関から邸内への通路は横幅が狭く天井も低めなのに対し、その先のリビング・ダイニングは吹抜けで天井が高く、南には大きな掃き出し窓とウッドデッキテラスも。リビング・ダイニングと地続きのウッドデッキテラスは邸内の床が外まで伸びているかのようで、広く感じさせるのに効果大。さらに、リビングと一体感のあるお孫さんのための子ども室には、2方向へ視線が伸びるコーナー窓。玄関からの狭い通路を抜けたとたん、上へも横へもふわっと広がるメリハリの利いた空間体験が、リビング・ダイニングを「広い」と印象づける。
このように広さを感じさせるポイントとして、齋藤さんが大切にしているのが「空気の量」だという。例えばこの別荘のリビングと子ども室に仕切り壁はなく、空間をゾーニングしているのは腰高の収納棚のみ。その上部には障子戸がはめられているから、仕切りたいときは閉めればOK。けれどひとたび障子戸を開ければ、子ども室にいても隣のリビングを含んだ空間が自分の居場所のように思えて、その分、体感する空気の量(ボリューム)も大きくなり、広く感じるというわけだ。つくづく、住宅というのは、設計者が空間のゾーニングをどう工夫するかで、住み心地が格段に変わるのだと実感する。
3つ目の要望「自然素材」については、節が味わいを生むパイン材の天井、無垢のブラックチェリーの床など、木の魅力を存分に感じられる素材で応えている。中でも面白いのは、壁の仕上げだ。自然素材の壁というと漆喰や珪藻土が思い浮かぶが、予算を抑えるために、齋藤さんは塗り壁の下地に使うドイツ製のクロスを採用。ただ、クロスといえども素材は紙なので、見た目もナチュラルで風合いも気持ち良く、訪れた人から「左官塗り?」と聞かれるほどだという。
この、壁の仕上げをめぐるエピソードからもわかるように、家づくりの現実を踏まえて齋藤さんが提案してくれる「妥当なライン」は、十二分にセンスがいい。コストを抑えていても品が良くて無駄がなく、住まう人がどこまでも心地いい。
シンプルな空間構成と、さりげなく仕込まれた機能性。そして、誰もが安らぐナチュラルな心地よさ。これらを備えた『北杜の別荘』は、無地の麻シャツをおしゃれに着こなす自然体のファッションとイメージが重なる。わかりやすいブランド品で着飾らなくても、質とセンスは最高峰。そんな住まいを望むなら、齋藤さんは願ってもないパートナーといえそうだ。
基本データ
| 作品名 | 北杜の別荘 |
|---|---|
| 所在地 | 山梨県北杜市 |
| 敷地面積 | 1118.00㎡ |
| 延床面積 | 52.98㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | A邸 |
撮影:新澤一平
設計者情報
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