
上質空間に心地よい時が流れる
猫と暮らす安らぎの平屋

高瀬 元秀
たかせ もとひで
タカセモトヒデ建築設計
三重県 伊勢市
住む人にとって理想の家は異なります。家を建てるということは、これから一生住まうことになる家を「考えていくこと」に他なりません。タカセモトヒデ建築設計ではクライアントとの会話や、敷地の特性からヒントを得て設計を行っていきます。ともに考えていくパートナーとして・・・快適といえる住まいの設計に携わることができればこんなにうれしいことはありません。
作品と仕事ぶりが信頼され依頼
広い家はいらないというリクエスト
農業を営んでいる実家の敷地にある、築後100年は超えているであろう古い農家住宅を取り壊し、そこに新しい住宅を建てることを考えていたNさんは、もともと建築に関心があり、雑誌などもよく読んでいたという。建築自体は、親戚が勤める工務店に依頼する予定ではあるものの、間取りや内外装といったデザイン面で「ありきたりな家」にはしたくないという思いがあり、設計は自分たちの想いを叶えてくれる人にお願いしたいと考えていたという。
そんなNさんの想いを叶える人として白羽の矢が立ったのが、三重県を中心に活動する建築家、タカセモトヒデ建築設計の高瀬さんだった。高瀬さんはこれまで、土地のもつ力を読み解き、施主をはじめそこに住まう人々の想いを汲み取った快適な家を数多く作ってきた。そんな高瀬さんは、Nさんのご親戚の工務店とも過去に数軒の仕事をしたことがあったという。
ご親戚の方は、高瀬さんの手掛けてきた家のクオリティーはもちろん、その仕事ぶりを高く評価。「高瀬さんなら叶えてくれるはず」とNさんを紹介したという。
「工務店様からもご信頼いただいていたようで、とても嬉しいオファーでした」と高瀬さん。
高瀬さんは、工務店というプロの眼からみても、全幅の信頼のおける建築家なのだ。
こうしてスタートしたN邸の家づくり。
Nさんの要望のうちの1つは、ちょっと意外ともいえる「広い家はいらない」というものだった。
元々この土地にあったのは、歴史ある大きな2階建ての農家住宅。Nさんはこの大きな家の管理の大変さを実感していたのかもしれない。大きな家は、掃除も大変だし冷暖房の効率も悪い。また家族構成が変われば「使わない部屋」が発生してしまう。
「敷地内には、倉庫もあるので収納もそちらで賄えます。将来的に手狭だとなれば別棟を建てることもできるくらいの敷地の余裕もあるせいかもしれません」と高瀬さん。
部屋数や広さというよりも、自然素材を使うなど「質感にこだわった家」にしたいという思いがあったという。そしてどこかに「畳敷き」の場所をつくってほしいというリクエストもあった。
また、Nさんの家では猫ちゃんを飼っている。愛猫が快適に過ごせることはもちろん、引っかかれたりしても、傷がつきにくかったり手入れしやすい配慮をしてほしいという要望もあった。とはいえ、キャットウオークを作ったり、猫用の扉をつけたりといったところまでは必要としないということだった。「猫と共に」ではあるが「猫のために」という家ではないのだ。
これらの要望にどう応えるのか。敷地も広く高低差もない。隣家で光が遮られるといったこともない。ウイークポイントがない理想的な土地だが、その分選択肢は無限だ。
この土地に対し、高瀬さんが提案したプランは、南に開いた東西に長い、切妻屋根の平屋。南面を広くとることで、光をふんだんに取り込むだけでなく、向かいに住むご両親の家との程よい距離がとれる。家の灯りが灯る様子や、行き来する様子、縁側や外で遊ぶ子供たちの様子を感じることができる。
室内は3つのゾーンで構成。西から玄関やバスルーム、パントリーといった機能をまとめたゾーン、中央がLDKゾーン、東側に朝日が差し込む個室ゾーンといった具合だ。
このプランにNさんも納得。大きな修正がなく建築に至ったという。
和を感じさせる外観と上質な室内で
人も猫も寛ぎ憩える平屋
外壁は、経年で風合いの変化を楽しめるよう、三重県産の杉板を縦張りで使用し上へとのびるイメージ。板と板の間は押縁張りを採用した。こうすることで、表面の凹凸が縞模様をくっきりと浮かび上がらせるとともに、メンテナンスの際も外したいところだけが外せるという実用性も兼ねた。
ガルバリルム鋼板を用いた切妻の屋根は、のっぺりした印象を避けるため1つで架けるのではなく高さを変えた2本にした。屋根が生んだ深い庇には縁側を設け、友人知人が訪れた際、ちょっと腰掛けて話していくこともできるし、子どもの遊び場ともなるという。
リビングの大開口には、レッドシダーで作られた格子の扉を取り付けた。こうすることで、網戸のように光や風を適度に取り込むことができ、雨戸のような役割も果たす。また、向かいの実家から丸見えにならず、プライバシーも確保される。そして何より、サッシやシャッターのように外観の印象を損ねることもない。一石三鳥の機能を持たせた高瀬さんのアイデアには驚かされる。
玄関は洗い出しの土間に床は杉の無垢材を張った。視線の先にはトップライトからの光が降り注ぎ、漆喰の白い壁が柔らかく照らす。このトップライトの光は、朝、昼、夕さらには天候など、時間の経過で様々な表情を見せてくれるのだという。
玄関の左側は、ランドリールームや浴室、奥側にはキッチンへと回遊できるパントリーが設けられている。
右手方向に進むと、LDKゾーンが広がる。南側の勾配天井の空間は小上がりになった畳敷きのリビング。光あふれる開放感抜群のスペース。北側はダイニングキッチンだ。
切妻屋根の勾配を活かし、こもる形のキッチンと天井の高いリビングを生み出したのかというと、ちょっと違うらしい。
「実はこの天井の勾配と屋根勾配は、あえてズラしているんです」と高瀬さん。実は屋根の一番高い部分は、個室ゾーンへの廊下にあたる部分の真ん中あたりだという。わずか数十センチほどずらすことで、より高さが際立ちDKとリビングの境がはっきりと浮かび上がる。ほどんどの人が気づかないこだわりを高瀬さんは施した。
この空間で気づくのは、リビングが小上がりの畳敷きになっていること。「畳敷きのスペース」というリクエストをこうして叶えてみせた。あえて小上がりにした理由としては、同じ空間でありながらしっかりとゾーニングを分けることと、小上がりにすることで地べたに座っているという感覚がなくなること。そしてダイニングの椅子に座る人との目線の高さが揃うというメリットもある。また、一角には高瀬さんが造作で作った、赤いソファーも。猫ちゃんが引っ搔いても大丈夫なような素材を使用した。このリビングは、畳でもソファーでもごろんと横になれる。実に気持ちの良いリビングに仕上がった。
北側のキッチンも造作だ。ナラ材の天板にシナで作られたカウンター。木に包まれる温もりあるキッチン。北側の窓の先には、遠く線路が見える。1時間に1本~3本運行される列車は時間を知らせてくれるアイコンでもある。
LDKゾーンの先、朝日が差し込む東側は、夫婦の寝室と子供部屋が向かい合う個室ゾーン。まだ幼い子どもたちの部屋は、将来的に2つに分割できるようにしてある。廊下の先には窓を設け、視線の抜けも確保した。
N邸は家族4人で2LDK(将来的には3LDKに変更可能)という、いわば必要最低限の部屋しかない。しかしながら、それぞれの場所が居心地よくゆったりとのびやかに暮らせる。また光や風、周辺の景色といった、いつも当たり前のようにある環境が、窓によって上手に取り込まれ、豊かな暮らしに一役買っている。土地の力を利用することが上手な高瀬さんの本領発揮といえるだろう。
この家の出来栄えに、Nさんも「リビングに入ってくる日差しが心地よく、子どもたちも猫も一緒に畳でお昼寝している」「季節によって窓を開け放ったり、格子や障子にしたりと日差しを調整できるところが気に入っている」とコメントを寄せてくれた。
施主それぞれに家に求めるものは違い、土地や自然環境も違う。高瀬さんがつくる家は、1棟1棟、全く違った顔や性格をもつ。1つとして同じようなものがない。共通点は、施主の想いが叶えられているということ。またどこかに、施主の想いを叶えたオンリーワンの家ができることだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | ネコと平屋 |
|---|---|
| 所在地 | 三重県度会郡 |
| 敷地面積 | 296.06㎡ |
| 延床面積 | 96.14㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人+猫ちゃん |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | N邸 |
撮影:株式会社BOOOTH辻・日紫喜
設計者情報
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